992:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga sage]
2012/10/11(木) 02:11:09.39 ID:mksfoAtL0
しっかりと箒をこの両手で抱きとめた。
「い、一夏?」
「一人でしゃべって、満足したら俺の番はなしで終わりなんて…… そりゃなしだろ、箒」
俺の中に広がる無意識の海は、俺の意識を否がおうにも自意識の浅瀬へと追いやっていた。
そのせいか、箒がそうであったように、俺が自分でさえ気づいていなかった部分まで滲み出してくる。
堤防を越え、陸地へとあふれ出す。
「本当はどうか知らない。箒がどう思っているのか気づきもしなかった。けどな、けどな箒…… 俺は一度だって、お前から離れたなんて思っちゃいないぞ!! 」
「一夏、お、落ち着け…… まずは少し離してくれ。わ、私はもう大丈夫だから」
「まだ離してやるもんか。お前が俺の話を聞き終わるまでな。俺はな箒、お前とずっとこの距離で話してると思ってた。お前がそんなこと思ってるなんて気づきもせずに。鈍感だとか、唐変木なんて言われるのも当たり前だ!」
体が燃えるように熱い。
逆に触れている箒の体は冷たくて、永遠に触れていたいと思うほど心地よかった。
俺の左の胸から伝わる鼓動と、箒の左の胸から伝わる鼓動が重なってリズムを奏でている。
「俺は、俺の限界まで近寄ったぜ。これ以上はもう近寄れない、あとは箒次第だ。箒…… その手を伸ばしてくれないか?」
「一夏…… 私は、私は…… 」
俺の背中に、細い指が這う。
ゆっくりと、慎重に、恐る恐ると。
俺の肩口と、わきの下あたりにやってきた両の手は、だんだんと力を込めていく。
箒の表情は窺い知れない。
彼女は俺の胸に顔を埋めているから。
「箒、顔あげてくれ」
俺と箒の鼓動がさらに早さを増した。
触れている肌と肌の間に、汗が一粒流れ落ちる。
箒の肌も、わずかに熱を帯び始めている。
「箒?」
二人の間の沈黙に、波の打ち寄せる音が割り込む。
月明かりはさらに薄まり、海の向こう側から新しい光が差し込んでくる。
「箒?」
もう一度愛しい人の名を呼ぶ。
今度は彼女も反応を示した。
ゆっくりと彼女の顔がこちらを向く。
「…… 一夏」
わずかに濡れた瞳、朱の刺した頬。
紅をさしてもいないはずなのに、その唇はつややかで。
本能的に、俺は喉を鳴らした。
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