過去ログ - 番外・とある星座の偽善使い(フォックスワード)
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70:作者 ◆K.en6VW1nc[saga]
2011/07/14(木) 21:08:20.27 ID:1DwrXIIAO
〜6〜

近しい例をあげるなら、自身の恋人、伴侶、家族が常に危険の渦中と危機の坩堝に翻弄され続ける事に他ならない。
勿論上条当麻はそれを自らの意志に依って選び、自らの意思に拠って進む。
しかしそれをすぐ側で、その傍で見ている者にはたまらない。

怪我、流血、戦傷……生死の境と死地の境、死の淵を行きつ戻りつし続ける男の半身たるという事。
その重圧、その辛苦、その懊悩……いずれも心身の消耗と精神の磨耗は想像を絶する。
その形が唇すら重ねない片恋ならばまだしも、身体を重ねた恋獄ならば火で炙られ火に焼かれ火を飲み込むようなそれ。

無論、麦野とて男女の関係を持ってすぐさま地金を晒すような生易しい精神構造などしていない。
そんなものは第十九学区での激闘と、アウレオルス=イザードとの死闘の中の上条を見て捨て去った。
故に麦野は上条とフラグを立てる女を殊の外忌み嫌う。それは単に微笑ましい嫉妬ではない。

『お前達に、こいつと人生を共にするだけの覚悟があるのか』と。
『お前達に、自分の死を懸けてこいつの生を守れるのか』と。
『戦う事以上の重圧と闘う日々に、耐えられるだけの器があるのか』と……

暗部の世界に身を置いて来た麦野だからこそ肌身に感じられる実感。
それは命の軽さと死の重さ。流した血と築いた骸と食んだ肉の味を知っているからだ。
好きだ嫌いだ惚れた腫れた、それだけで上条の側に在り続けるなど不可能だと理解しているからだ。

躊躇いなく自分の命をドブに捨て、躊躇なく他者の命を食い散らかす。
揺るぎない思考と揺るがない志向と揺るがせない指向。
それを砂糖をまぶしたような笑顔で、蜂蜜をかけたような声音で、煉乳を溶かしたような精神で――

言い寄って来る女を見ると殺したくなるほど麦野は上条を愛していた。
上条が傷つくような厄介事を運んで来る女がいれば先んじて始末したくなるほどに。
されど上条は人を助ける、救う、守る。麦野をそうしたように。
故にその行動原理を麦野は出来うる限り尊重する。
そうでなければ自分を救った上条と上条に救われた自分の否定に繋がるからだ。

この紐解けない矛盾を後に麦野は自ら乗り越える事となる。
しかし今この時は、その二律背反の板挟みの中精神の蟻地獄とも言うべき擂り鉢の袋小路を彷徨っている最中であった。

自分が幸せな未来、誰かに優しい世界、そんなものは存在しないと言わんばかりに。



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