過去ログ - 番外・とある星座の偽善使い(フォックスワード)
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858:作者 ◆K.en6VW1nc[saga]
2011/09/17(土) 21:29:42.80 ID:W55C2CfAO
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……いつしか麦野が手にしていた紙コップの底には僅かにコーヒーの名残を残すのみとなった。
反対に冥土帰しは手にしていたコーヒーはまだ半分以上残っている。
しかしもう時間はない。食事休憩が終わりつつあった。

冥土帰し「……僕はそろそろ行くとしよう」

麦野「うん……」

冥土帰し「最後にもう一つだけ。この中身を覗き込んでごらん?」

冥土帰しが手にした紙コップを麦野に差し出して来た。
半分以上残ったコーヒーの表面は波打ち、そこに訝る麦野が映り込み、揺れる。

冥土帰し「君が映っているだろう?」

麦野「そうね。だから何?」

冥土帰し「――揺れて、歪んで映っているのが見えるだろう?」

麦野「そりゃ……」

冥土帰し「歪んでいるのは君の顔かな?それとも揺れているコーヒーのせいかな?」

麦野「――……」

冥土帰し「そう言う事さ」

冥土帰しが伝えたい事。それは心の在り方。己の内なる水面を凍てつかせるのではなく、鏡のように静める事。
心静かに保つ事が出来ぬ者にはいつまで経っても己の姿が歪んで見える。
実際の己の姿は何一つ変わってないにも関わらず、自分が本当に歪んだ人間だと思い込んでしまう。

麦野「(――静かに自分に向き合えって事ね)」

この医者はいつからカウンセラーに職替えしたのかと麦野はアップにした後ろ髪を払って溜め息を一つついた。

麦野「――先生?」

冥土帰し「何だい?」

麦野「やっぱりコーヒー飲んだら寝れそうにもないわ。もう少しウロウロしてくる」

冥土帰し「そうかい?」

麦野「――眠くなるまで、話し相手でも見つけてね」

冥土帰し「……1935号室。君も彼女も手短にね?」

麦野「……わかった」

冥土帰しから離れ、サイドポニーを揺らして麦野は再び渡り廊下へ向かう。
背中越しに笑みを浮かべ、肩越しの謝意を言葉に乗せて。

麦野「ありがとうね、先生」

そうやって取り戻した足取りのまま去り行く麦野を、冥土帰しは薄くなった頭をかいて見送った。

冥土帰し「――患者に必要なものを用意するのが、僕の仕事だよ――」


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