703:LX[sage saga]
2012/05/06(日) 22:52:35.75 ID:RpQV+FS/0
キッチンでご飯が炊けたアラームが鳴ったが、席を立つものはいない。
美琴は話を続ける。
「でね、私は、その実験を止める為に、自分が死ぬことで止めようと思ったの……。
私が実験に参加することはそいつらの想定外だったし、もちろん私が死ぬことも実験の計算外だったから」
「おまえ……!」
「美琴ちゃん……」
さらりと出てきた「私が死ぬ」という言葉に両親は驚愕する。
まさか、娘がそこまで追い込まれていた、とは。
お前は何をしていたんだ、と旅掛はギリリと歯を食いしばり、両手を握りしめる。
母・美鈴は心底、娘を学園都市に送り出したことを後悔した。
自分の未来に夢と希望を持って胸を膨らませて、まるで遠足に出かける時のように家を出て行った、幼い美琴の姿を思い出す。
(なんてことを、私は……)
(知らなかった。そんなところへ、私は……この子を、送り出したの?)
「死ぬ覚悟だった私を、わたしをね、文字通り身を張って止めたのが、あいつだったの……」
「……それが、上条、くん、だったのか?」
「えっ!?」
二人は同時に美琴を見る。
「そう。本当にあのバカはね、私に向かってきたの。まぁ、前から、あいつとはしょっちゅう勝負してたし。
……でもね、私、あいつに全敗だったの。一度も勝てなかったんだ、何やっても……。
いっつもあいつの右手が勝っちゃうのよ、おかしいわよね、無能力者なのにね」
昔を思い出しているのか、楽しそうな顔で、声でしゃべる美琴。
「あの時は、私もテンパってたから、邪魔するヤツはただではおかないって、ホント私って、馬鹿だったわ。
私が、余計なことをしなければ、あいつももっと早く実験場に着けたはずだし、もう少し楽に勝てた、かもしれないのにね」
そう言うと、彼女は牛乳を飲む。
「それで、結局、あいつはボロボロになっちゃって、でもその身体で、あいつはね、クローンのあの子と、わたしを助けるために、実験場へ行ったわ」
結果的に、あいつは、勝ったの……信じられないけれど、学園都市のレベル5の第一位に勝ったのよ。
私も一度、そいつと闘ったことあるけれど、まるでお話にならなかった相手なのよ。
そんなヤツを相手にね、右手一本で、勝ったの……あいつは。
そのおかげで、あの、恐ろしい実験は中止になって、あの子は九死に一生を得たわ。それに、生き残っていた残りの『妹達<シスターズ>』も助かったってわけ……」
「そう、だったのか」
「……」
両親二人が、お互いに顔を見合わせる。
「あの子にとって、だから、あいつはね、命の恩人なのよ。ううん……それ以上ね。
あいつは、あの子にとって全てなの、生きる意味、そのものなのよ」
旅掛と美鈴は今、理解した。
土下座して詫びた上条当麻、彼の子を身ごもった女が誰なのか、美琴が「あの子に取られた」と言った、その「あの子」が誰なのか、を。
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