900:LX[saga sage]
2012/10/08(月) 19:50:43.49 ID:vRcZk8Ww0
  
 言った瞬間、しまった、と美琴は思ったが出た言葉は戻らない。 
  
 麻美は下を向いてしまい、美鈴もえっ?と言う顔で一瞬言葉を失った。 
  
 言いようのない空気があたりを支配する。 
  
 「ゴメンね、母さん。私、今は二足のわらじ履いてるの。あっちにクルマ待たせてるし。 
  
 ヒマ見つけたら帰るから、風邪ひかないように気を付けてね。お父さんによろしく」 
  
 気まずい雰囲気を打ち消そうと、美琴は早々に切り上げることを選択した。 
  
 正直言えば、この後の予定はなかった。帰ろうと思えば帰れた。 
  
 だが。 
  
 麻美と、御坂妹と一緒には家に戻りたくなかった。 
  
 いや、「新しい家」には「行きたくなかった」 
  
 殆ど記憶になかった家。 
  
 小さい頃に出た、あの家。 
  
 でも、あれが、あの家が、私のおうち。 
  
 それが。 
  
 理由はわかるけど。 
  
 ……でも。 
  
  
  
 「そうなの?……仕方ないわね、それじゃ……そう、美琴ちゃん? あなた、ちゃんと栄養のあるもの食べなさいよ?  
  
 健康に気を付けてね? 帰ってくるの待ってるから」 
  
 「お姉様<オリジナル>、お気を付けて」 
  
 それじゃね、と3人はお互いに手を振り合う。 
  
 ゲートに向かおうとした美琴は、あ、と言ういたずらっぽい顔で最後に言った。 
  
 「ちゃんとあたしの部屋、あるんでしょうね?」 
  
 一瞬、はい?と言う顔をした美鈴であったが、直ぐに厳しい顔で答えた。 
  
 「正月早々バカ言ってるんじゃないの! あるに決まってるでしょう? 客間にでも寝かせると思ってたの?」 
  
 「あははは、それ聞いて安心したわ。じゃねー」 
  
 美琴はゲートに向かって走り出した。 
  
 何故か、涙があふれでたから。 
  
 そんな顔を二人に見られたくなかったから。 
  
  
  
 「美琴ちゃん、ちょっと変だったわね」 
  
 「……お姉様<オリジナル>は、私とは一緒に帰りたくなかったのでしょう」 
  
 「そんなこと」 
  
 「すみません。私がいなければ、お姉様<オリジナル>は皆さんと一緒に正月を過ごされていた事でしょう。私が悪いのです」 
  
 「そんなこと言わないの! あの子だってもう子供じゃないんだから。落ち着いたら帰ってくるわよ。ほら、しっかりしなさい」 
  
  
  
 コインパーキングに向かう美鈴と麻美。 
  
 停めていたクルマの後席に麻美を座らせ、運転席に乗り込もうとした美鈴の動きが止まった。 
  
 彼女は、娘・美琴が走り去ったゲートをじっと見つめ、小さくつぶやいた。 
  
 「あっちに入れたら追いかけられたのに……いつになったら入れるのかしらね」 
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