988:LX [saga sage]
2013/01/10(木) 21:25:31.32 ID:1IBHAIL60
<番外編その2>
「お疲れ様。じゃ、また明日ね」
「お休みなさい、お姉様<オリジナル>」
「違うわよ『美子』、そこは『上条委員』でしょ?」
「……失礼致しました。失礼致します、『上条委員』」
「オッケー。お休みなさい」
「お疲れ様でした」
上条当麻と美琴夫婦の借り上げ社宅の前で、「美琴」と第一秘書の「美子」が別れの挨拶をかわしていた。
「美琴」と別れた「美子」は、広い通りに出てタクシーを探すが、夜の住宅街ということで困った事に流しのタクシーが全く通らない。
参ったな、と言う顔の彼女は数秒目をつむり、何かを考えたようだった。
しばらくすると、1台の大型スクーターがやってきて彼女の前に止まった。
「忙しい時に来てくれてありがとう、とミサカはまず御礼を述べます」
「それは皮肉ですか、と現在も絶賛求職中のミサカは羨望に若干の妬みを込めて答えてみます」
「代われるものなら代わっても宜しいですが? とミサカは自由を満喫する検体番号17600号に魅力的な打診をしてみます」
「定職、と言う意味では魅力的な申し入れですが、内容を考えると謹んで御辞退させて頂きます、とミサカは検体番号"19090号"に未練がましい答えを返します」
だめですか? はい重ねて遠慮します、とのやりとりの後、検体番号「19090号」は渡されたヘルメットを被り、スクーターの後席に横座りする。
「あまり好ましい座り方ではありませんね、とミサカは暗にちゃんとまたがれというニュアンスを含んだ警告を発します」
「パンツスーツなら良かったのですが、スカートでははしたない格好は出来ません、と、ミサカは早く帰りたいからとっとと発進しやがれ、と苛つきをおくびにも出さずに返事をします」
「落ちても知りませんよ? とミサカは検体番号19090号に確認を取ります」
「落ちないように丁寧な運転を心がけるべきです、とミサカは検体番号17600号に安全運転教本の一文を唱えます」
「やれやれ晩飯1回くらいじゃ割に合いませんね、とミサカは安請け合いをした自分の情けなさに思わず歯がみをします」
そう言うと、彼女はスクーターを発進させた。
「御坂美子」の検体番号19090号の脳裏には、つい先ほど別れてきた、思い詰めた表情の「上条美琴」の顔が浮かんでいた。
(大丈夫でしょうか、検体番号10039号……)
検体番号10039号こと御坂美子(みさか よしこ)は、今、オリジナルである上条美琴(かみじょう みこと)の影武者を演じているのだった。
そして、第一秘書の「御坂美子」は彼女、検体番号19090号の御坂琴子(みさか ことこ)が演じていたのだった。
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「こんなはずじゃなかったのに……」
おもわず、愚痴が口をついて出る。
自分一人には広すぎる家。
今日も美子はひとり、この家にいた。
家の主、上条当麻は現在海外出張中であった。
妊娠したお姉様<オリジナル>、上条美琴から「1年、自分の影武者を演じて欲しい」と言われた御坂美子は、「公私に渡って上条美琴として行動して良いのなら」という条件でその話を受けた。
もっとも、お姉様<オリジナル>がこの条件を呑んで、了解したという返事をくれるまで半月ほどかかったのだが。
ダメもとで条件を出した美子は小躍りして喜んだ。
やっと、やっとあのひとの傍に居る事が出来る、と。
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