73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/08/17(水) 20:02:27.50 ID:c+5+k8k3o
―――六月二十一日
敵の正面から山城の丘を越えるのは難しいと考えた私たちは、南端の荒崎海岸に向かいました。
そこには、住民も兵士も混じって、ものすごい人が集まっていたのです。
するとその中に、生き残りの女学生や先生方の集団がありました。
「ああ!お姉ちゃん!?」
不意に、解散命令以来聞いていなかった、懐かしい声がします。
憂が私に走り寄り、抱きついてきます。
「憂!?あずにゃんも!よかったぁ〜……」
「唯先輩!澪先輩!ご無事だったんですね!」
その背後に、あずにゃんの姿もありました。
私たちをしげしげと眺めていたあずにゃんの表情が、次第にこわばります。
「あの……ムギ先輩や、律先輩は……」
「ムギと律は、もういない。いないんだ」
澪ちゃんが、きっぱりと言い切り、口を固く結びました。握った拳がブルブル震えています。
「……そう、ですか」
あずにゃんは、納得したというよりは、あきらめたような口調で応えました。
憂は、二人の最期を聞いて、私に抱きつく腕の力を強めます。私まで失いたくないのでしょう。
「澪ちゃん。二人にも、ちゃんと話しておこうよ。誰かがムギちゃんとりっちゃんのこと、伝えてくれないと…」
「……うん。そう……だな」
私と澪ちゃんは、途中、何度も言葉に詰まりながらも、内容を補いあって、
ムギちゃんとりっちゃんのことを、そして、さわ子先生や他の人のことも、出来るだけ語りました。
学徒隊の働きを後世に伝える、なんて立派な理由から話したのではありません。
このまま、みんな永久に忘れ去られてしまうなんて、あまりに寂しいからです。
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