88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/08/17(水) 21:07:49.96 ID:c+5+k8k3o
―――どのくらい時間が経ったのでしょうか。
私は全身の傷口にハエがたかり、ウジが体中をついばむ感覚で、ぼんやり意識を取り戻しました。
「……ぅ……ぃ」
憂の名を叫ぼうとしても、激痛とともに血がのどにゴボゴボと絡まるだけ。
手榴弾の破片にやられたのでしょう。目も見えず、言葉も発することができません。
感覚のなくなった右手を、左手で触ると、手首から先がなくなっていました。
(……憂……どこ……?)
しばし、岩陰を転がってまさぐりましたが、憂らしきものには触れられませんでした。
(ああ、きっと、米兵にさらわれちゃったんだ……)
私は負傷がひどく気絶して仮死状態で、死体と間違えられたのでしょう。
(こんな、こんなことって……)
妹と最期を共にすることさえできないなんて。
光を失った私の両眼から流れる、血の涙。
(憂、ごめんね……最期まで情けないお姉ちゃんで、ごめんね……)
きっと、憂も米兵の獣欲の毒牙にかかった挙げ句、殺されるのでしょう。
もはや私には、助けに行くこともできません。
(……だったら、せめて、せめてこんな暗い穴蔵じゃなくて、太陽の下で、死にたい……)
そして私は、片ひじと片ひざで、波の音を頼りに、ズルズルと、外にはい出したのです。
ざざあ……
ざざあ…………
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