8:Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc[saga sage]
2011/08/17(水) 16:13:55.12 ID:5Lu3WJlC0
――ガチャリ、と部屋のドアが開いた。
金属音が彼女の思考を止める。
使われなくなったこんな部屋に誰が? 横になっていた少女が顔を向けると部屋の入り口には見慣れた白い顔が一つ。
手にはコンビニの袋を持っているようで何が入っているかまでは分からない。
ただ彼女の経験上、袋の中に缶コーヒーが入っている事だけは予想できた。
「………何でまだいやがるンだオマエ」
白い少年は吐き捨てるように言うと、ソファから離れた位置にある椅子に腰を掛ける。
座るとともに脇に置いた杖がことりと小さな音を立てる。
時計を見ると少女が一人になってから三十分以上も時間がたっている。
「別にどこにいようと勝手じゃない? この部屋の契約は明日まで……つまり今日明日は自由に使えるって事でしょう?」
不機嫌な少年の棘のある言葉を向けられた少女はソファに寝転がりながらクスクスと笑い、いつも通りに答えた。
できる限りいつもと同じように。
「貴方こそこんなところにいていいの? お姫様が首を長くして待っているんじゃないのかしら」
今まで幾度となく少女や仲間が少年をからかうために使ってきた言葉だ。
いつも通りに彼をからかうように発されたその言葉。
ただその言葉には今の彼女には今までには込めた事のなかった裏の感情――嫉妬が含まれていた。
その皮肉の言葉こそ彼女の持っていない彼の『目的』の一つであり、それは彼女の今一番求めているものだから。
「…………」
そんな心情を知ってか知らずか少女の言葉に少年は沈黙で返す。
広くない部屋に気まずい沈黙の時間が訪れる。
おかしい、と少女は寝転がりながら首をかしげた。
普段の少年ならば毒舌とともに、いかにも不機嫌だという殺気やら怒気やら敵意やらをドロドロにごちゃ混ぜにした強い威圧感を放ってくるのだから。
どうしたものかと少年の表情を窺うと、白い顔に苦虫を噛み潰したような不機嫌な表情が張り付いていた。
「どうしたの? いつもなら『黙れショタコン女』とか『その口縫い付けられてェか露出狂』くらいの憎まれ口を叩くのに」
少女は体を起こし、ソファに座りながら質問を重ねる。
彼女にとって会話自体に意味なんてない。
コイツとはいろいろと相性が悪いし、そもそも会話が成立するかどうかも怪しい。
そもそもコイツと初めてあった時の事は軽いトラウマだ。
だから結局はただの暇潰しだ。
現実逃避だ。
もし真面目な答えが返ってきたところで笑い飛ばすかからかってやればいい。
少女はそう考えていた。
少年の言葉を聞くまでは。
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