23: ◆3/LiqBy2CQ[sage]
2011/09/15(木) 20:19:57.51 ID:+wTNpPwyo
紬「――あぁ…お味噌汁ぐちゃぐちゃ…」
火にかけたまますっかり忘れられていたお味噌汁。中身なんてもうほとんどない。とりあえず火を止める。
吹き零れて火が消えてガスが充満……なんてことにならなかっただけ良しとしよう。居間で疲れ果てて寝ている唯ちゃんに万が一の事があったら悔やんでも悔やみきれない。
……もっとしっかりしないと。何があっても守らないといけない人が、私にはいるんだから。
――居間に行き、裸で眠る『守らないといけない人』の傍らに腰を下ろす。
まだ暖かい日が続くとはいえ、裸のままなのはどうかと思わないこともないのでタオルケットだけはかけておく。
紬「……おやすみ。何も心配しないでいいからね。唯ちゃんを傷つけるもの全てから、私が守ってあげるから」
ずっと助けてもらってた。ずっと心を守ってもらってた。そして幸せを貰った。
ならば、次は私が返す番だ。たったそれだけのこと。
紬「……幸せ、かぁ……」
自分には無縁だと、いつしかそう思ってしまっていたその言葉。それでもそれは求めれば手に入る物だったんだ、と今更になって気づく。
胸の内で燻らせている想いを、相手にぶつける。それが幸せになるための第一歩。それさえしなかった昔の私を悔やむ気持ちは勿論あるけれど。
いや、むしろ遅すぎたのかもしれない。不倫というカタチになってしまったのは、遅すぎた私に対する罰には違いない。唯ちゃんを巻き込んだのは、私の罪に違いない。
それでも、私の中には確かに幸せがある。私の隣には唯ちゃんがいる。その幸せだけは、絶対に誰にも否定させない。
唯ちゃんも同じ気持ちだと信じているから、わかっているから、あとは私が唯ちゃんを守り抜く。たったそれだけのこと。
紬「……ふふっ……」
胸の奥の支えが取れたように、身体が軽い。世界が輝いて見える。人を愛するという事は、それだけで視界を大きく変えてしまう。
唯「んぅ……」
紬「っと……よしよし」
そんな輝きをくれた唯ちゃんの頭を優しく撫で、タオルケットから投げ出された両手をどうしようか悩んでいると。
ふと、リストバンドが目に入る。二人とも、行為の最中も決して外さなかったリストバンド。二人だけの絆の証。でもそれは、唯ちゃん自身の汗を吸って少しだけ汚れているように見えた。
きっと私のも汚れているんだろう。性行為はかなりのカロリーを消費する。つまり大量の汗をかく。女の子は特に、ね。
唯ちゃんの前で外すわけにはいかないけれど……今は寝ているし、せっかくだから二人分いっしょに洗っておくのも悪くはないかも。
左手首からリストバンドを外すと、多数の傷が目に入る。本当に幅広のタイプにしておいてよかったとつくづく思う。
でもこの傷も、もしかしたら唯ちゃんなら受け入れてくれるのではないか。今ならそんな気もする。
それに……唯ちゃんがいてくれれば、私はもう手首を切る事はない。満たされていない自分と、汚い世界からの逃避として、私は手首を切っていた。そんな気がするから。
だから、今残っている傷が癒えた頃に唯ちゃんに打ち明ければ、案外なんとかなるのではないか。あくまでそれは、私が立ち直った証としか映らないのではないか。
……なんて甘い考えを抱いていたけれど。
紬「え……っ……?」
それは、あくまで私自身にしか適用されないことで。
紬「……どうし、て……?」
唯ちゃんの手首に走る、私と同じ傷には、甘い考えは到底適用されなくて。
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