過去ログ - まどか「無限の中のひとつの奇跡」
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67: ◆oQV5.lSW.w[sage saga]
2011/10/13(木) 02:36:45.44 ID:oIK4Qu7A0
「諦めていないのは、想い人、ですか」
この会話の流れなら、左程不自然なことはない。
さやかさんからの伝聞による後ろめたい秘密の知識を
私自身の推論で上書きして、その言葉を発する。
「ええ、そうよ」
躊躇の無い肯定。
触れられたくない領域では無かったことに安堵し、もう少し質問を続けてみる。
「どんな方でしたか」
こちらを向き、暁美さんが微笑む。
私に向けられた始めての、彼女の本当の笑顔。
「――ここに居れば、きっと貴方とも良い友達になっていたと思うわ」
――冗談ではなく、想い人は同性の方なのでしょうか。
もっとも、此岸と彼岸の境界を超えようとまでする想望の元では
友情も恋慕も、区別など無くなってしまうのでしょう。
「貴方には、想い人は居るの?」
「!」
自分に返ってくる話題。間抜けな話だけど、それは予想だにしていなかった。
「え……それは……」
口篭もる。裏を返せば、完全な肯定。
「誰とは聞かないし、他人の恋路に口を挿めるほど、私は図々しくも経験豊かでもない」
再度暁美さんがこちらを向く。だけど今度は笑顔ではない。
未来に落ちる不安の影を見つめているような、そんな暗い表情。
「――けれどその結末が悲劇になりそうなら、話は別」
屋上入り口の扉が開く音がする。
「未だこの世界は、呪いに満ちているけれど」
待ち人来たる。もう一度髪を風に乗せ、暁美さんはそちらを振り向き
「せめて、私の周りの人達くらいは、笑顔でいて欲しいから」
そして、愛しみに満ちた笑みを投げ掛けた。
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