54: ◆Neko./AmS6[sage saga]
2011/10/31(月) 00:43:48.32 ID:o3htaoiVo
社宅へ向かう坂道を先輩と一緒に歩いていると、ふっと彼女が溜息を吐いた。
営業所の中では決して見せない憂いに満ちた表情に、俺はいささかの戸惑いを覚える。
「わたし、若い頃からモデルとかテレビに出ているような人たちって、
普段わたしたちが見ている顔と本当の顔は違うんじゃないかと思っていたんです。
あっ、もちろん見た目がっていうわけじゃなくて、性格がっていう意味ですけどね」
「先輩の言いたいことは俺もよく分かりますよ」
「でも、あやせちゃんはわたしが思っていたようなそんな人じゃなかった。
見た目と同じで純粋で、わたしなんか足元にも及ばないくらい素敵な人でした」
あやせの純粋さは俺も認めるところだ。
いささかそれが暴走して、自己完結しちまうところが玉に瑕なんだがな。
何度あの性格に俺が振り回されたことか、今思い出してもよく耐えられたもんだ。
俺はあいつのそんな危うい性格が心配で仕方がなかった。
あいつの思い込みの強い生来の性格が、こんな形で現れるとは思いもしなかった。
どこかで区切りをつけないと、このままじゃあやせは……。
「あやせちゃんが、日曜日にわたしを訪ねて来たことは話しましたよね。
……うーん、高坂さんに話してもいいのかなぁ」
やがて先輩は、あやせと出会ったあの日の出来事をゆっくりと話し始めた。
初めのうちこそ互いに警戒していたそうだが、そこは同い年の二人だ。
すぐに意気投合して、その日はかなり遅くまでおしゃべりに花が咲いたそうだ。
あやせが俺に電話を掛けてこなかったのも納得がいく。
「あの日、別れ際にわたしに頭を下げてあやせちゃんが言ったんです……」
「あやせは先輩に何て言ったんですか?」
「……お兄さんをよろしくお願いします」
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