過去ログ - 京介「思えば遠くへ来たもんだ」
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69: ◆Neko./AmS6[sage saga]
2011/11/06(日) 22:04:59.50 ID:hxzUZCi2o

先輩は缶ビールとグラスを部屋のガラステーブルの上に置くとすぐに台所へ戻った。
俺は自分が酒にそれほど強くないことを思い出したが、今更断るわけにもいかねえし……。
もしこれがあやせの仕掛けた罠だったら、喜んで掛かってやろうじゃねえか。

覚悟を決めてビールを飲みながら待っているうちに先輩からお声が掛かった。
俺がグラスを持って台所へ行くと、テーブルにはすでに二人分の食事が用意されていた。
あやせには申し訳ないんだが、久しぶりにまともな料理をこの目で見た気がする。

「やっぱ、先輩って料理が得意なんですね。何か申し訳ないって言うか……」

申し訳ないという気持ちは、この場合、先輩とあやせの両方に対してだがな。

「そう言っていただけると、わたしも作った甲斐があります。
 誰かのために料理を作るのなんて久しぶりなんですが、やっぱりいいものですね。
 気合が入るっていうか……作っていても何だか楽しいんですよね」

テーブルは白木の二人掛けの小さなもので、俺と先輩は向かい合わせに座った。
先輩が炊飯器の蓋を開けると白い湯気が立ちのぼり、旨そうな飯の香りが俺の胃を刺激する。
しかし、先輩は茶碗に飯をよそおうとして、ふとその手を止めた。

「……高坂さん、もう少し飲みませんか? わたしも少しだけ飲みたくなっちゃいました」

「いや、でも……そ、そうですね。先輩が飲むなら、俺ももう少しだけいただきます」

完全に断わるタイミングを逃しちまった。
ていうか、先輩が断わる隙を与えなかったと言うほうが正解かもしれん。
後で後悔しても知らんからな、俺。

「ねぇ高坂さん、今日は、わたしから先に注がせてください」

俺が先輩のグラスにビールを注ごうとすると、彼女は俺の手をそっと包み込み微笑んだ。
何やら俺を見つめる先輩の眼差しが妙に熱くて艶めかしい。
どうせまた俺をからかってるんだと分かっていても、この気持ちの高ぶりは抑えようがない。


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