6:nyan[saga]
2011/11/07(月) 00:08:17.50 ID:WE841c1m0
ボク達は一人で怖がっているだけだったんだね、あにぃ……。
兄は頷いた。
頷いたような気がしただけだったかもしれないが、少なくとも妹はそう思った。
そして、バスは発車していく。兄を乗せて発車する。
妹は兄を引き止めるわけにはいかない。
それに……。
兄は足が速くて追いつけないから……、
それでも、追いつきたいから……、バスが発車して長い間、妹はバスを追いかけていた。
気が付けば、感情のままに駆けていた。
「ボ……、ボクも……、ボクも……!」
駆けながら叫んだ。
妹は兄の乗ったバスが見えなくなるまで走ったが、
追い付けず見失い、その後は雪の中に身体を投げた。
そして、雪の中に埋もれながら、妹は胸の痛みと懸命に戦った。
言えなかった。
「ボクも連れて行って!」と、どうしても妹は言う事が出来なかった。
それは言ってはならない。
言ってはならない事だからだ。
いつか、いつとは知れないけれど、いつか妹は自らの足で兄の傍に駆けねばならない。
その先にこそきっと、二人がいつも過ごしていた様な、そんな世界が広がっているはずだから。
恋人の時間が、その先にあるとは限らないけれど、妹はそこに至らねばならない。
足の速い兄に追いつける時、それこそが二人の始まりなのだと思うから。
妹は立ち上がって歩き出していく。
一歩一歩進むしかないのだと思う。
男とか女とか関係なく、自分が自分であるために。
妹ならば胸の痛みには、きっと堪える事が出来るだろう。
いつか痛みを乗り越え、兄と共に過ごす日々を手に入れる事が出来るはずだ。
彼女が彼女であり、その決意を忘れない限り。
けれど、その時までは紛れもなく痛みが存在する。
別離。愛惜。哀憐。
それらの思いが。
だから、兄の唇の感触がもう少し薄れるまで、妹にとって辛い時間は続くのだろう。
今だけ……、泣くのは今だけだから……。
だから、いいよね、あにぃ……。
そう思いながら大声で泣いたのは、それからずっと後、
何事も無かったかのように妹が自宅の布団の中に潜ってからの事だった。
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