5:nyan[saga]
2011/11/07(月) 00:02:11.86 ID:WE841c1m0
願いが届いたのかどうか、バスは雪で十五分ほど遅れて到着した。
それでも、妹は何も出来なかった。
女なのか男なのか、それすら分からない自分が兄に何を伝えられるのだろう。
けれど。
兄がバスに乗り込もうとして、
「またね」と言ったとき、何かをしなければならないと感じた。
幼い頃、共に遊んでくれた兄。
足が速くて追いつけなかった兄。
でも、今度は追いつかなくてはならないのだ。
今日こそは。
いつも兄の事を考える度に、切なくて泣いていた。
家事が上手いわけでもなく、容姿に優れているわけでもない自分に泣いた。
もっと自分が出来る事を見つけたかった。
我侭を言うだけでない存在になりたかった。
されど、
そう出来ない自分に対して込み上げる涙に、妹の言葉は何度も押し殺されていたのだ。
だから、今日こそは、
何かをしなきゃいけない。
そうして、妹は、涙が流れるのも構わず、
眼を開いて、兄に飛び掛って、兄の肩を掴んで、
雪に降られても構わず、白い世界で二人きりでいるように。
兄の唇に、
ほんの少しだけ、
自らの唇を重ねた。
ほんの数瞬だけの、
恋人の時間。
この時間がずっと続いて欲しいと思った。これこそが永遠なのだと思いたかった。
それでも、兄は足が速いから。
追いつけなくて。
兄はまだ遠い存在で。
まだきっと憧れのようなものでしかないのだろう。
いつか追いつく事が出来るのだろうか。
唇は刹那のうちに離れ、兄の困ったような微笑を見て、妹は気付いた。
ねえ、神様は人間を真っ直ぐに創ったはずなのに、どうしてボク達は複雑に生きているんだろう?
迷い続けて、どうして生きていくんだろう?
分かった。迷い続けるのも、複雑に生きているのも、自分のせいだ。
兄はずっと何でも受け止めてきてくれてたのに、
自分一人で怖がって動けなくて、言葉に出せなくて、何も出来なくて、
そういう事だったのだと兄の微笑を見て分かった。
兄もきっと同じだったのだ。妹と同じ様に、多くの事に胸を痛めていたのだ。
だから、遠くへ行くのだろう。自分達の未来を考え続けるために。
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