過去ログ - 俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.12
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758:或る災難 ◆ebJORrWVuo[sage saga]
2012/06/24(日) 01:26:09.49 ID:TPid8TO+P
「ふっ……どうやら、貴方達、本気で死にたいようね。良いわ、私の本当の力、魅せてあげるわ」

 目を赤く光らせて、異様な雰囲気を醸し出している姿も居る。黒猫だ。というか、おまえ、戦闘能力皆無だろ、今直ぐ逃げろって!
 直ぐに捕まってしまうだろうという俺の予想に反して、周囲はそれなりにビビっているらしい。黒猫に近寄ろうとしない。そして、黒猫がなにやらをぶつぶつと唱えながら、一人の男に手を向ける。
 この状況でハッタリをかませるなんてどんだけ度胸が座ってんだ、と俺が半ば感心した所、異変は起きた。
 黒猫がその男に手を向けると同時、男はびくっと後ろに飛び退いた。ビビりすぎだろ、と思った所で、ガィン! と轟音が鳴り響く。呆気に取られている俺の前で、男のひぃ、という情けない悲鳴が聞こえた。男の今しがた居た空間に砂煙が上がっている。そして、その場所をよく見ると、鉄骨がその場に突き立っていた。上を見るに、幾つもの鉄骨が置かれておりそこから落ちてきたのだろうと推測出来る。

「…………、ふ、ふっ。こ、これが私の力よ」

 嘘つけ! どう考えてもおまえの腰が引けてるわ! つか、嘘だよな、ホントに? た、偶々だよな?
 俺が違う意味で戦慄していると、また違う声が響く。

「ほっほお、流石は黒猫氏。見直しましたぞ!」
 見直す場面じゃねえだろ、ビビれよ、自分の友達がよう分からん力を発揮してんだからさ!
「ですが、拙者も負けておりませぬ。見よ、この力を!」

 そう言って、手にしていたモデルガンを男の集団に向けた。そして銃口を引く。
 モデルガンから何かが飛び出し、男の集団の前で何かが弾けた。映画で聞くような音よりはもっと乾いた音ではあったが、銃声のような音に似ていた。
 も、モデルガンだよな?
 全力で引いている俺。沙織がωな顔を向けて、頷く。いや、モデルガンじゃねえだろ、それ!
 ヤダよ、友達が犯罪で捕まんの!?
 大いに連中がビビっている。そりゃそうだろう。数として、以前連中のが上回っているが、質が違う。明らかに異質な三人組だった。
 だが、ビビってはいるものの、女連中だと甘く見ている部分もあるのか、一気に取り押さえれば、どうにかなると考えているのか、男達の行動がじりじりとしたものに変わる。
 くそ、もうこの場に桐乃は居ねえよ、早く逃げろ!
 そう叫びたくても、声が出る程に身体は回復していなかった。
 そして、そこに新たな声がした。

「きょうちゃん? あ、居た。もう、探したんだからねー?」

 余りにも場違いな声。間延びした、俺をどこまでも安心させてくれる声。

「ま、麻奈実」

 そう、この声は麻奈実だった。全身から力が抜けていくのが分かる。この険悪な殺気立った戦場で、そこから一歩も動いていないのに、今だってその場にいるのに、この安堵感はなんだ。

「まったく。だめだよ、こんな場所に一人で来ちゃ。ちゃんと、冷静になって、大人の人を連れてくるの。分かった?」

 周囲なんてまるで見えてないかのように、麻奈実は真っ直ぐ俺へと歩いてくる。
 周囲の連中も、呆気に取られたように動きが止まっている。
 連中の視線を一身に受けながら、しかしその全てを受け流し、麻奈実はゆっくりと俺の元へと辿り着く。

「あーあ。ひどい怪我。痛いでしょ。もう、本当、男の子はこれだから」

 わたしの弟も、よく怪我してくるよ、と言いながら、俺の頬を撫でてくる。
 それだけで、俺の目から涙が止まらなかった。

「……ま、麻奈実」
「うん。何? ……きょうちゃん。よく頑張ったね。あとは、任せて?」

 麻奈実にどうこう出来る連中じゃない筈だ。こいつは完全にそういう戦闘能力的な何かは持ってない。運動だって得意じゃないぐらいなのだ。なのに、何故だろう。もう既にどうにかなる事が俺には分かっていた。だって、俺は知っている。こいつは、本気で怒ることはない。けど、本気で怒った時、どれほど恐ろしいのか。

「……きょうちゃんを、こんな目に遭わせたのは、あなたたちですね?」

 麻奈実は、静かに周囲に声を投げかける。
 声を向けられた連中は、動揺しながらも、頷く。

「なら、わたしはあなたたちを許しません。ぷんぷん」
 場違いな台詞。でも、自然にその言葉は周囲に溶け込んで、
「だから、罪を償ってください」

 そう言い放った。同時、倉庫の扉が更に開け放たれる。
 半開きだった扉が、完全に開かれ――。
 そこに立つ、複数の大人の姿。一見して分かる。どれも警察官の格好をしていた。
 そしてその中心に立つ、何故か着流しを来ている、まるで極道さながらの姿。
 余りに鋭い眼光を放ちながら、その男は俺を視線で捉えると、言った。

「この馬鹿息子が。こういう時は、初めに警察を呼ぶものだ。一人で突っ込んでいくなど、愚の骨頂」
 そう言うと、しかし口の端を上げて、言葉を続ける。
「だが、よく桐乃を逃した。それでこそ、俺の自慢の息子だ」

 ……ああ。桐乃、ちゃんと逃げ切れたんだな。
 そして、最強の味方を呼んできてくれた。
 俺の意識が、急速に遠のいていく。これで、全て大丈夫だと確信して、気が抜けた。
 親父が、指示が飛ばす。一斉に、警察官が野郎連中を取り押さえていく。
 あやせも黒猫も沙織も、怪我はないみたいだ。
 頭に、温かい手の平を感じ、俺は安堵する。
 俺、頑張ったよな?

「うん。きょうちゃんは、頑張ったよ」


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