過去ログ - 俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.12
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759:或る災難 ◆ebJORrWVuo[sage saga]
2012/06/24(日) 01:27:02.74 ID:TPid8TO+P
 それから、次の日。
 俺は病院のベッドで目を覚ました。
 目を覚ました時、麻奈実と黒猫が居て、俺の顔を覗き込んでいた。
 俺が目を覚ました事に、麻奈実は素直に喜びを表し、黒猫は静かに笑っていた。
 さっきまで、あやせが居た旨、これから沙織が来る旨を教えて貰った。
 ……桐乃は、来てないのか。
 べ、別に妹に来て欲しかった訳じゃない。ただ、無事な妹の姿をしっかりと見て安心したかった。
 沙織もやってきて、30分程話して、そろそろ面会時間も終わるとの事で、皆が、帰っていった。
 それなりに怪我を負っていたようだが、骨折というレベルのものはなく、一週間程度の入院で済むらしい。
 妹が見舞いに来ないなら、俺が本当の意味で安心出来るのはまだまだ先だな、と思っていた所で、ドアが開いた。

「……具合、どう?」
「……そっちも、どうだ。なんか、されなかったか?」

 開いたドアの先、そこには俺が会いたかった人物が立っていた。いつも通り、垢抜けた格好。ひと通り見た所、怪我はなさそうだ。

「別に……。あ、あんたが助けてくれたから。何もされてない。ちょっと、手首が痛いぐらい、カナ?」
「そうか……。手首、見せてみろよ」
「う、うん」

 桐乃は、俺の寝ているベッドの横まで来て、俺に手首を見せる。若干、赤い。未だに後が残っているという事は、結構痛いんじゃないだろうか。

「おい、桐乃、どうせ病院に居るんだからちゃんと医者に見て貰えよ? 痛いだろ?」
「う、うっさい。大丈夫だって。あたしは、怪我なんてしてない。そういう事なの」
「どういう事だよ」
「いいの、あたしが良いって言ってんだから、納得しなさい。分かった?」
「へいへい」

 ったく、人が心配してんのに。まあ、明日には跡が消えてそうな感じだし、大丈夫だろうとは思う。つか考えてみれば、昨日の状況からして、既に簡単な診察は受けているのかも知れないしな。
 ああ、そうだ。言おうとした事があった。

「桐乃、ありがとな」
「へっ……!? え、なにが?」

 俺の台詞が予想外だったのだろう、きょとんとした顔を向けてくる。

「いや、親父呼んでくれただろ。助かったわ」

 あれ以上の助っ人は無いだろう。色んな意味で。

「べ、別に礼を言われる事じゃないでしょ。つか、礼を言うのは、……あたしの方だし」

 顔を背けて、桐乃は呟く。

「あ、ありがとね」
「お、おう」

 素直な桐乃の謝罪を聞いて、少し照れてしまう。
 別にこいつに礼を言われたくてやった訳じゃないが、嬉しく思う。
 本当、良かった。こいつとこうして話せる事ができて。
 それだけで、今回の苦労は全部チャラになる。
 

 病院の扉を背にしながら、兄妹の珍しい素直な会話に耳を傾ける。
 素直だけど、全部は晒していないわね。
 彼が病院に運ばれたその日、付きっきりで面倒を見てた癖に。
 泣きじゃくりながら、断固としてその役目を他の人に譲らなかった癖に。
 十数人に囲まれて、死ぬほど怖くて、虚勢も持ちそうになくて、そこにやってきてくれた彼の姿を見て、凄い安堵した癖に。
 十数人居るのに躊躇せず自分の元に歩いてきてくれた事が、とても嬉しかった癖に。
 ……本当、莫迦よね。そして、彼はきっと今回の自分は駄目だったと反省するのでしょう。
 貴方以外の誰が、十数人に囲まれていた状況から、あの女を無傷で助け出せると想っているのかしら。
 私だって、同じ状況ならそれでも足を踏み入れたかも知れない。けど、無傷で助け出せるとは到底思えない。
 足だって竦んでしまうし、そんな躊躇いもなく入り込めるとは思えない。
 ……その点で言うと、あの狂戦士も躊躇なく入っていったわね。
 桐乃のためじゃなく、その兄の為に。まさか、あの女……。
 ……。まあ、仕方ない、のかしら。
 彼が、妹の為に無様に駆けずり回る姿を、彼女も見てきたのでしょうから。
 ふっ、いいわ。ライバルは多いほど、燃えるってものよ。
 そう考え、私は病室を後にする。本当は、花瓶の水を変えようと思っていたのだけど。
 二人の時間を邪魔する程、野暮ではないしね。
 全く。そうね。あの男を助けようとした皆の姿を思い浮かべて、私はこう思う。
 この作品に名を付けるとしたら、こうかしら。
 

 親友の兄貴が、こんなに格好いワケがない。


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