過去ログ - 禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」
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615: ◆ES7MYZVXRs[saga]
2013/04/19(金) 23:07:04.68 ID:nvGs0I5wo

記憶が無い上条にとっては、彼女とは両親よりも長い時間を共に過ごした人だ。
一緒に居るだけで心が落ち着き、例え二人の間に会話がなくても居心地がいい。
お互い迷惑もかけるし、心配もかける。
そしていつだって互いが互いの味方。もし世界中が上条の敵に回ったとしても彼女だけは味方でいてくれるし、その逆だってそうだ。


それがきっと、家族というものなのだろう。


パズルのピースがはまっていく。

もちろん、刀夜や詩菜の事を親だと思っていないという事ではない。
二人と過ごした時間はまだまだ少ないが、それでもどれだけ自分のことを大切に思ってくれているのかはよく分かっている。そして上条もそれに応えたいと思っている。
ただ、今の上条にとっては家族と言われると真っ先に浮かんでくるのがインデックスなのだ。

記憶喪失のすぐ後などは特に、彼女の存在は絶対だった。
彼女が他の誰かの元に行ってしまう事を想像するだけで、心に絶望が広がって何も考えられなくなった。
彼女の笑顔は自分に向けられているのではなく、以前の上条当麻へのものである事に悩んだ。
まるで何かの劇のように、自分が自分以外の誰かの役を演じている感覚が続いた。

だが、それも次第に変わってきた。
以前の上条当麻がどれだけ彼女のことを大切に思っていたのか、それは分からない。
それでも、今の上条にとっても彼女は本当に大切な存在だ。
そこは今も昔も関係ない。いや、それこそが以前の上条当麻と自分を繋ぎ止めているものだった。

これはただの希望にすぎないのかもしれないが、例え記憶を失っていなかったとしても、今までの行動は変わっていなかったと思うようになっていた。
今まで体験してきたどの事件でも、以前の上条当麻は変わらずに手を差し伸べていたのだろう。
それが、全てを賭けてでもインデックスを守ろうとした上条当麻だと思うから。

記憶は失ったとしても、心は残っている。
少しも科学的ではないこの考えだが、きっと正しいはずだと上条は今だって信じている。


上条は目を開ける。
そこに広がっていたのは、茜色の空と見渡す限りの山々だった。
ここはもう上条の精神の中ではない。現実に戻ってきた。

右隣では食蜂が微笑みながらこちらを見ていた。
僅かな風にサラサラとした金髪をなびかせるその姿は、夕焼けに染まる空と相まって絵画的な美しさを感じさせる。

「何か掴めましたか?」

「……あぁ。やっぱ前に操祈が言っていたことは間違ってなかったんだと思う」

「え?」

「俺がインデックスの事を娘のように思っているってやつ」

「でもそれって私、上条さんとインデックスさんを離そうと思って言った事ですよ?」

「それでも、だ。ほら、俺って記憶がないからさ。一番長い間一緒に居るインデックスの事は本当に家族のように思ってるんだ。
 最初の頃はアイツが側から離れて行ったらどうしようってすっげえ怖かった。たぶん、それが今でも心のどこかに残ってるんだ」

「…………」

「はは、情けねえよな。俺は俺だって威勢の良い事言っておきながら、心の奥ではまだそういう怯えがあるんだ。
 インデックスはもう記憶喪失の事は知ってるし、今の俺も受け入れてくれてる。それでもまだ俺はアイツにすがりついてる。
 アイツが側から居なくなったら、俺の存在自体の意味が薄くなるなんて思ってる。これじゃ娘というか、俺が親離れできない子供みたいなもんだ」

上条はそう自嘲すると、真っ直ぐ空を見上げる。
太陽は西の空へと沈んでいく間際で、最後の輝きを放っている。
光があればそこには影もあるように。
上条の心の中の暗い部分はどれだけの月日が流れても根強く残っている。
普段はその姿を見せていなくても、ふとした時に表に出てくるものだ。



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