過去ログ - 禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」
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◆ES7MYZVXRs
[saga]
2013/04/19(金) 23:07:44.26 ID:nvGs0I5wo
食蜂はじっとこちらを見ていた。
そして何かを言おうとして中途半端に口を開き、躊躇する。
「ん、どうした? 何かあったら教えてくれ。俺もまだ掴みきれてないとこともあるかもしんねえ。自分のことなんだけどさ」
「……いえ、何でもないです」
「そうか?」
上条の視線から逃れるように、食蜂は景色の方に顔を向ける。
その様子に、上条は何かまずい事を言ったのかと心配になる。
夕陽に照らされたその横顔は、美しくも悲しげなものだった。
どうして彼女がそんな表情をするのか、上条には分からない。その表情は美しいものではあったが、いつまでも見ていたいものではなかった。
少しの沈黙が二人の間に流れる。
辺りには人もいないので、お互いが黙ると風が木々を静かに揺らす音しか聞こえなくなる。
すると。
「やっぱり私って、すっごく性格の悪い女なんですね」
ポツリと彼女の口から漏れだした言葉。
それは簡単に風にかき消されてしまうほど小さく弱々しいものだった。
彼女はとても悲しそうな表情で笑っていた。
彼女が何を思い、そのような事を言ったのかは分からない。
しかし、それがどのような理由だとしても、上条はそんなものを見せられて黙っている事などできない。
「そんな事ねえよ」
「上条さんは優しいです。でも、気をつけてください。あなたのその優しさを利用してくる人は絶対に居るんです」
「……それがお前だって?」
「はい、その通りです」
そう言う彼女は、触れればすぐに壊れてしまいそうだった。
だからこそ、上条は踏み込まなければいけない。
「利用するとかどうとか、いちいち気にすんなよ」
「え……?」
「例えお前にどんな考えがあったとしても、俺はこうして協力してくれた事に感謝してるんだ。だから、それでお前にも何か良い事があるんなら、俺としても嬉しい」
「違うんです。私は私のことしか考えてません。上条さんの気持ちなんか考えずに、ただ自分の目的を果たせるように動いてるだけなんです」
「それでいいさ」
「どうしてですか! この間私のせいであんな事になったのに、なんで!」
「もうあの時から操祈は随分変わってる。俺は精神系の能力者じゃないから頭の中は読めねえけど、それでも電車の中の涙や今日一日の笑顔はウソじゃねえってのは分かる。
遠慮してんじゃねえよ。ちょっとくらいのワガママなら笑って許してやるし、それで済まないんならもう一回ケンカして仲直りするだけだ。それが友達だろ」
「…………」
「つーか、そんだけ悩みまくってるのだって、俺のことを考えてくれているからこそだろ?
本当に性格が悪いなら、そういう怪しまれるような仕草は見せないだろうに。お前ならそういうのを上手く隠すのは得意だろ? けど、それをやらなかった。
俺は絶対お前を見捨てたりしねえから安心しろって。俺の周りには一度殺し合いをした仲ってのも珍しくないんだぜ? 上条さんは懐が広いんですよっと」
そう言って笑顔を向ける上条に、食蜂は目を丸くして呆然としていた。
上条はそんな簡単に人を切り捨てたりはしない。一度間違ったことをしたとしても、その相手がいつまでも敵である必要などどこにもない。
人間、生きていれば数えきれないほどの間違いを犯す。その度に様々な事を学び、成長していく。
食蜂はその能力の影響で気付きにくいのかもしれないが、互いの本当の気持ちが分からないというのは当たり前な事だ。
誰だって心の底では何を思っているのかは分からない。友達だと思っていた者が、本当は自分のことを心底嫌っているかもしれない。
結局は、きっと相手も友達だと思っていてくれていると信じるしかない。
そして、いつかその信用が試される時がくるかもしれない。
その時に互いの友情を確認できればいいのだが、もしかしたらそうではないかもしれない。
友達だと思っていたのは自分だけだったという結果が返ってくるかもしれない。
それでも、上条はそこで相手との関係を断つことはないだろう。
例え相手との絆が繋がっていなかったとしても、こちらから伸ばし続ける事はできるはずだ。
いつかはそれが繋がってくれる時が来る。そう信じて。
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