過去ログ - 禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」
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756: ◆ES7MYZVXRs[saga]
2013/07/16(火) 17:48:18.34 ID:wF64hV+jo

「インデックスは全然そんな事思ってねえのにな。アイツは立派な想いを持って、イギリスで自分の力を役立たせたいって思ってる。
 それなのに、俺はそれを無視して、ただ俺の都合が良いってだけで無茶苦茶な事を思っちまった。それで、同時にすっげえ怖くなったんだ」

「怖い……?」

「こんなんでインデックスが居ない生活に俺は耐えられるのかって。一ヶ月であの有様だ。それが半年、一年って続いて、俺は本当にまともな生活を送れるのかってさ。
 それで俺だけが辛いならまだいいけど、何かの拍子に周りまで巻き込んじまうんじゃねえかって、自分で自分が分からなくて怖いんだ」

「…………」

「俺は一度そういう奴を見たことがある。インデックスのために全てを捧げて、それでも報われなかった男。
 インデックスは他の男の隣で幸せそうに笑っていて、もう自分はその場所に立てないと知った時のその男の事が頭から離れねえんだ。
 これからインデックスにとっての居場所はイギリスになる。そして俺は過去の人間になっていく。二度と会えねえってわけじゃなくても、俺はもうアイツの隣に居られねえ」

グッと手すりを握る力が強くなる。
歯を食いしばり、その間から白い息が漏れ出して上空へと昇っていく。

「インデックスはきっと幸せそうに笑ってる。イギリスで誰かのために自分の力を使えて、誰かを笑顔にする事ができて。
 俺はそれを心から祝福してやれるのかって。本当の意味でアイツの事を考えてるなら当然それができると思うんだ。でも、俺はその確信を持つことができねえ」

上条は乾いた笑いを漏らした。
たぶん、今まででここまで何の気持ちもこもっていない笑い声を出したのは初めてかもしれない。

上を見上げると、雪が顔に落ちてくる。
それに対して冷たいと思えるくらいには、今の自分は冷えきっていないらしい。

「ホント、どこまで依存してるんだって話だ。アイツは俺の所有物なんかじゃねえのに。これじゃ娘を持つ親父どころの話じゃねえよな」

「……あのさ」

ここにきて、上条は視線をすぐ隣の美琴に向ける。
だが彼女はこちらに目を向けているわけではなく、先程の上条と同じようにただ前方の景色を見ていた。

彼女の口が動く。
しっかりとした意思のこもった言葉が、紡ぎ出される。

「ごめん、アンタの話を聞いて、正直私は何を言えばいいのか分からない。でもさ、代わりに一つ、私の話を聞いてほしいの」

「御坂の?」

「うん。何となくだけど、それがアンタにとって何かのヒントにもなりそうな気がする。どう?」

「いや、別にいいけどさ。俺も話聞いてもらったし」

「ありがと」

美琴はそう言うと静かに目を閉じた。口元には穏やかな笑みを浮べている。
その様子を見て、上条は思い出話でもするのかなと思った。どこか楽しげな事を思い出そうとしているように見えたからだ。

そしてそれは一応は当たっていた。

「私とアンタが初めて会った時……って覚えてないんだっけ」

「あぁ、その、悪い」

「別に謝らなくていいって。あ、そうだ、じゃあちょっと予想してみてよ、私とアンタの初対面がどうだったか」

「……ビリビリをぶちかました?」

「ご明察。私が不良に絡まれてる所をアンタが通りかかってさ、助けようとしてくれたわけよ。その時は『へぇー、こんな奴居るんだ』ってちょっと感心したのにさ。
 けど、次に出てきた言葉が『こんなガキ相手に何人がかりだ!』よ。その後も反抗期も抜けきってない子供とか好き勝手に言ってくれちゃってさ。それで」

「すみませんでした」

「あはは、いやだから別に謝ってほしくて言ってるわけじゃないっつーの。それに今思えば私もちょっと手が早すぎたってのもあったし、ね。
 とにかく、それからアンタに私の力が通じない事が気に食わなくて、いつも勝負勝負って追いかけるようになったわけ」

美琴は笑みを浮かべたまま続ける。

「今だから言えるけど、正直そうやってアンタの事を追っかけまわしたりするのは楽しかったわ。
 ほら、私って周りからは広告塔みたいな扱いされて、素の状態で話せる相手なんて黒子くらいしか居なかったのよ」

「そっか……」

そういえば白井黒子から聞いたことがあった。
美琴は人の輪の中心に立つことはできても、輪の中に入っていくことはできない。
上条のような平凡な者には分からない、持つものゆえの悩みがあったのだ。



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