過去ログ - 禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」
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755: ◆ES7MYZVXRs[saga]
2013/07/16(火) 17:47:29.19 ID:wF64hV+jo

しかし、一方で彼女はそんなどうでもいいような会話をしに来たわけでもないらしい。
まぁ、考えてみればわざわざこんな所まで来るのだから、それも当たり前だ。

「それで、こんな所でアンタ一人で考え込まないといけない事って何なの?」

「……できればあまり言いたくないっていうのが正直な所なんですが」

「アンタ、人をこんな所まで連れてきて何も言わないってどうなのよ」

「いやいやいや、お前が勝手に来たんじゃん!」

「そうだっけ? まぁいいじゃない、そんな小さなこと。それより早く言いなさいよ、どうせインデックスの事でしょ」

美琴の余りにも直球すぎる追求に、上条は思わず彼女から離れようと、体を少しずらす。
すると彼女はすぐにその後を追って、結局元の距離感に落ち着く。つまりは腕が触れ合って、茶羽織を共有できるほどのゼロ距離というわけだ。
雪は静かに二人の上にも積もっていくのだが、それでも腕が触れている部分は熱く感じ、雪が乗ってもすぐに溶けそうな気がした。

美琴は真っ直ぐこちらの目を見てくる。
こうなったらおそらく言うまで諦めないなと思い、上条は一度溜息をつく。

先程からずっと考えても答えはでなかったのだ。
インデックスがこっちに居る期間などを考えれば、素直に相談に乗ってもらう方がいいのかもしれない。

「今日、俺とインデックスが崖から落ちて色々大変だっただろ?」

「えぇ、そうね。もう毎度のことって言っちゃうとそうなんだけど、やっぱアンタっていつもそうよね」

「その全てがもう手遅れっていう感じに言うのやめてください。……あー、でもありがとな、俺達の事探してくれてさ」

「何度お礼言う気よ、もういいっての。私達だって別にいやいや探してたわけじゃないし、一緒に旅行来てた人が居なくなったらそりゃ探すでしょ」

「それでも、だ。俺は本当に嬉しかったからさ、そうやって俺達の為に動いてくれる人が居るって事が」

「どういたしまして。でもアンタだっていつも誰かのために動いてるじゃない。それこそ『情けは人のためならず』ってやつじゃない?」

「えっ、それって人に情けをかけるのはその人の為にならないって事か? 随分つめてえな……」

「バーカ、人の為にしてあげたことはいつか自分にも返ってくるっていう意味よ。勉強しなさいよ勉強」

中学生相手にこう言われる高校生というのも何とも情けないものだが、もう慣れたものだ。
そもそも、常盤台中学というのは卒業と同時に社会に出ていけるようになるという話だし、この知識差も仕方ないものなのだと思い込む。

ただ、美琴の言葉に嫌味なものは含まれていなかった。
どこまでも優しく、包まれるような言葉は良い意味で中学生らしくない。

上条は苦笑いを浮かべて頬をかくと、顔を上げて視線を上空から舞い落ちてくる雪に向けて、ぽつりぽつりと話し始めた。

「俺さ、ひでえ事思っちまったんだ」

「え?」

「あの洞窟の中で、インデックスと二人で色々話した。そんで、やっぱり落ち着くんだ、アイツとそうしてるとさ。
 話の大半は中身がほとんどないような、どうでもいいような事だった。それでも、俺にとってはいつまでもそんな話をしていたいって思っちまうほどに居心地が良かった」

「そっか……」

「それでさ……俺……」

上条は言葉を切ると、静かに目を閉じた。

暗闇の中で考える。これから言うことは決して気分の良いものではない。
正直美琴には話したくないという理由の大部分は、それを話して失望されるのが怖かったからだ。
彼女は自分のことを心配してくれている。力になりたいと思ってくれている。そのことがとても嬉しかったから。

目を開く。流石に彼女の方を見ることはできない。
視線はただ真っ直ぐ前。ぼんやりと浮かぶ民家の光と雪だけを捉えている。

「……ずっとこのまま居たいって思ったんだ」

「それって」

「あぁ。誰も助けに来なければ、インデックスとずっと一緒に居られる。イギリスに帰ることもなくなる。
 いっそ、そのまま二人で全てから逃げて、学園都市もイギリス清教も見つけられないような場所でずっと二人で暮らしたい、そんな事まで思っちまったんだ」

一度口に出すと止まらなかった。
悪いものは一気に吐き出そうとするように、上条は次々と言葉を紡ぎだす。

しかし、どれだけ吐き出しても中のドロドロは一向に良くなる気配がない。



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