過去ログ - 窓際のあなたに花束を
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]
2011/12/05(月) 15:38:35.17 ID:2KYW5uy50
彼女を初めて見かけたのがいつだったのか、今ではもう、すっかり忘れてしまった。
それくらいに私がこの場所にいる期間は長く、彼女を見ていた時間も長いから。

彼女と私。
恐らく、歳は彼女の方が一つか二つ、上だと思う。
それとももしかすれば、同い年なのかも知れなかった。私にはその辺りのことはよくわからないのだけど。

静かな館内。
たまに聞こえるこそこそ話や外からの小さな子供たちの騒ぐ声。
一枚、また一枚とページのめくられていくひそやかな音だって、この空間に至っては別世界のことのように思えてしまう。

図書館の、片隅。
大きく背の高い本棚たちに囲まれてひっそりと置かれている、二つっきりの、古びた椅子と、小さな丸机。
私だけの、場所。
私はこの場所から、少し離れた場所に立って本に読みふける彼女の姿を見るのが好きだった。
決して笑ったり泣いたり怒ったりはせずに、ただ一心に物語の世界を覗いている、その姿が好きだった。

私だけの、場所。
彼女がいて、本があり、それだけであぁと私は思うのだ。
ここはきっと私だけの世界で、外の声も、周囲の微かな物音もまったくもって関係なく、一歩外に出れば広がるはずの世界なんて
本当は存在していないのだと、私は思うのだ。

私だけの、場所。
誰にも邪魔されることのない、私たちだけの場所。


2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]
2011/12/05(月) 15:50:01.83 ID:2KYW5uy50
―――――
 ―――――

ああ、と小さな声を上げた。
ふと瞳を開けたそのすぐあとに、私は彼女の姿を見つける。
以下略



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]
2011/12/05(月) 16:02:48.12 ID:2KYW5uy50
最後に彼女の姿を見たのはいったい、いつのことだっただろうか。
記憶の糸を辿るものの、よくはわからなかった。
けれども、久し振りのように感じるのは、私の感覚が決して狂っているわけなのではなく、彼女自身の醸し出すその雰囲気や、そんなものが違うように思えたからなのかもしれない。

彼女のなにが、そんなに気に入ったのかと問われれば、きっと私は真っ先に彼女の持つ純粋さだと答えるだろう。
以下略



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sage]
2011/12/05(月) 17:38:41.79 ID:wEpHMSsSO
ふむ


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]
2011/12/05(月) 17:49:49.77 ID:2NFzAnft0
>>3訂正
大人になれば大人になるにつれて、変わっていく世界に耐えられなくなりそうな、そんな危うい白を、彼女は持っていたのだ。


6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]
2011/12/05(月) 17:58:46.30 ID:2NFzAnft0
私にはもう既に失くなってしまったも同然の、その純粋さだ。
思わず惹かれてしまうほどのそれが、今の彼女には感じられなかった。

感じられないのとは少し違うのかも知れない。
よく言えば、彼女は落ち着いていたのだ。きちんと、大人になりつつある、その過程の中に身を投じている、そんなふうなのだ。
以下略



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]
2011/12/05(月) 18:06:35.87 ID:2NFzAnft0
落ち着いているはずなのに、こんなにも不安定。
純粋さの欠片が、あちこちに散らばっているように、それを探し回っているのか、もしくはそこからも遠ざかろうとしているのか、ふらふら、ふらふら。

文字に落とすその視線も、こころなしかふわふわと彷徨っているように見えた。
見えるものは、見るべきものは、彼女のすぐ手元にあるというのに、ふわふわと彷徨っていて、定まらない。
以下略



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/05(月) 18:14:33.26 ID:2NFzAnft0
きっと、なにかあったに違いないのだ。
彼女が私の羨望するほどの純粋さを、自ら壊したのだとしても、隠したのだとしても。
なにかあったに、違いない。

私は初めて、迷った。
以下略



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/05(月) 19:10:56.14 ID:2NFzAnft0
次第に、私はぎこぎこと今にも音をたてて崩れそうな椅子に座ったまま、うとうととしはじめる。
ああ、ああ、ああ。
なんということだろう。

私だけの、場所。
以下略



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/05(月) 19:38:49.79 ID:2NFzAnft0
次に気が付くと、彼女は私のすぐ傍にいて、相変わらず躊躇われるような視線を物語の入口へと落としていた。
こんなにも近くにいることに、気が付かずにいたなんて。

彼女はこの間見たときと同じく、視線だけを落ち着かせずにそこにいた。
間違い探しのようだと思った。
以下略



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/05(月) 19:47:26.11 ID:2NFzAnft0
ああ、そうだ。
きっとなにかあったわけではないとしても、彼女は疲れているのだ。
私はそう、思った。思って、口に出そうとした。出そうとしたけれど、出せなかった。
ここで出してしまったら、彼女に聞こえそうな気がしたのだ。私に気付いて欲しいわけではないのだ、私は。ただ、彼女が私たちだけのこの場所に、来なくなってしまったらどうしようかと、そう案じていただけだったのだから。彼女がまたここにいるのだから、もう彼女に声を掛けるか掛けまいか、迷わずにいなくてもいいだろう。

以下略



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/05(月) 19:56:56.42 ID:2NFzAnft0
古ぼけた椅子に身を置いたまま、私は彼女を見詰めた。
それだけで、彼女はまだ物語の中に入ってすらいないのだとわかった。
彼女は真剣だった。
真剣に、じっと、本の表紙を、別世界への入口を、見ていた。
迷うような視線で、じっと、真剣に、見ていた。
以下略



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/05(月) 20:04:25.84 ID:2NFzAnft0
はやく、はやく。
心の中の声に反応するかのように、彼女の指が、ようやくのろのろとページを繰った。
彼女はそれから、迷ったような視線を、ふと、こちらに向けた。

硬直はしなかった。
以下略



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/05(月) 20:05:17.60 ID:2NFzAnft0
とりあえずここまで、一週間以内には完結させたい
ここまで見てくださった方ありがとうございます


15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sage]
2011/12/05(月) 20:12:33.70 ID:wEpHMSsSO
期待



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越)[sage]
2011/12/05(月) 21:06:43.00 ID:Sa2dGF+AO
なんだ……このガチな感じ


17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/06(火) 12:09:30.16 ID:A2d0SDiX0
彼女はぎっと音をたてて、椅子に座った。
俯いた恰好でただ彼女は座っただけだった。もう私に目を向けることもなく、ただ開いたページに相変わらずの迷う視線を落としたまま、彼女は黙って、丸机を隔てた向こう側にいた。

私はそれでも、彼女を見詰めた。
ああ、ああ。
以下略



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/06(火) 12:23:20.27 ID:A2d0SDiX0
疲れてしまって、彼女はついに色までもを見落としてしまったというのだろうか。
それとも何か言いたげな言葉のかわりに、落としてしまったのだ。
私には彼女の疲れがなにを意味するのか、わかる気がした。彼女の妙に落ち着いた雰囲気と、それに見合わない落ち着かない視線と、それから透明な、彼女自身のことが、なにを意味するのかわかる気がした。

彼女は向かおうとしているのだ、きっと、暗いくらい闇の底へ、向かおうとしていて、躊躇っている途中なのだ。
以下略



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/06(火) 12:28:49.13 ID:A2d0SDiX0
ゴーン、ゴーン。
錆び付いた音が、またしても今にも崩れそうな館内に、響いてしまった。

彼女は結局、一ページも読み進めることなく、本を閉じた。
はやく、はやく。
以下略



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[saga]
2011/12/06(火) 12:29:15.67 ID:A2d0SDiX0
とりあえずここまで


21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sage]
2011/12/06(火) 16:17:20.68 ID:UEWRO7bk0
ふむ。
これはまた高難易度のSSに挑戦したな。期待して見てるぞ


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