過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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87:【3/3】[saga]
2012/01/19(木) 16:02:18.41 ID:xhi2Hb1Oo
 ダルクは。
 つかの間を置いて。
 
「ある」
 
 と答えた。
 途端に「本当に?」と目を輝かせたエリアだったが、ダルクは正直に事実を続けた。
 
「正確には、あるかもしれない、だ」
「えっ? ど、どういうこと?」
「……師匠がそう言ったんだ」
 
 ダルクは、コップを握っている自分の手に目を向けた。
 その手首には、無骨に取り付けられた分厚い手錠がはめられている。
 ゆえあって、決して外すわけにはいかない手錠――。
 
「オレは、自分がどうやって生まれたか分からないんだ」
「えっ? お父さんとお母さんは?」
「分からない。気がついたら、牢屋の中につながれていた」
「……そんな……」
「ずっと長い間、陽も差さない牢屋で育ってきた。
 今にして思えば当たり前だ、そこは闇の世界だったんだから」
「!」
 
 ダルクはコップを煽った。
 冷めたスープは、あっという間に空っぽになってしまった。
 
「でもある時、師匠がオレを拾ってくれた。
 オレを世話していた奴と取り引きをして、オレを解放してくれたんだ」
「……」
「そのあと、すぐに師匠がオレに尋ねたんだ。
 オレが女の子を助けたのを覚えているか、って。
 オレは正直に『知らない』と答えた。
 だって、長年牢屋の中にいて、一体どうやって誰かを助けられる?」
「……」
「それ以降、師匠はまったくその話題に触れることはなかった。
 オレも詳しく聞きだすのがなんだか怖くて、それについては黙ったままなんだ」
 
 ダルクはそこで言葉を切り……「それで終わりかな」と身の上話を打ち切った。
 
「だからきっと、エリアは他の誰かと勘違いしているんだと思うぞ」
「……やっぱりそうかな」
「そうだよ。だってオレが外の世界に出たのは、師匠と日帰りで実地実習に来たときだけだ。
 もちろんその時は女の子を助けた覚えなんてない。
 大体そんな子がいたら、外界に慣れないオレなんかより、真っ先に師匠が助けそうなものだし」
「……そっか……」
 
 エリアのどこか残念そうな顔が気の毒に思われ、ダルクは話題をエリアに移した。
 
「そのエリアのいう女の子っていうのは、やっぱりエリアか?」
「う、うん」
「じゃあ、エリアを助けた人っていうのは、オレに似ていたりするのか」
「……うん。男の子で……ダルク君にそっくり……」
「えっ? 何だって?」
「で、でもっ、やっぱり違うの。初めてダルク君に会ったときから、違うって確信していたの」
「そ、そうだろうな」
「何ていうのかな……たとえば人を探していて、似た後ろ姿の人を見つけて、呼び止めたとするじゃない?
 そうして振り返った顔がぜんぜん違う顔で、ああ別人だったんだ、ってはっきり確信するじゃない?
 それにすごく近い感じなの。はっきり別人だって、分かっちゃっている状態……」
「だったら、別にそれでいいんじゃないのか?」
「うん……でも……」
 
 神妙な顔つきで、自分の指先をいじるエリア。
 その最中、ちらりとダルクの顔を盗み見る。
 ちょうどダルクと目が合ってしまい、ばつが悪くなる二人。
 
「でも、なのにすごくヘンな感じなの。……ダルク君じゃないって、確信はあるのに……」
「ま、まあ結局思い過ごしじゃないのか? きっと考え込むだけ損だ」
「……うん……そうかな。ホントなんなんだろ……」
 
 
 
 ――そのときだった。
 まったくの突然に、この室内に何者かの気配を感じた。
 ダルクは相手をみとめるより早く、とっさに自分の杖へと手を伸ばした。
 


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