過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」 U
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86:【2/3】[sage saga]
2012/01/19(木) 16:00:58.22 ID:xhi2Hb1Oo
 やがて――エリアがコップを置く音が、コトンと響いた。

「……もしかして、ずっと気にしてたの?」
「……ああ」
「そうだったんだ……」

 頭を下げながらも、ダルクはなんだかいたたまれない気持ちになっていた。
 誤解を招いた場面が次々と思い起こされ、もう今やどうすればよいのか分からない。
 
 そんな彼に、エリアは意外な言葉を投げかけた。

「私の方こそ、ごめんね」
 
 ダルクが「えっ?」と顔を上げると、そこには申し訳なさげに伏せられた眼があった。
 
「あのとき私も勘違いして……怖がっちゃって……」
「えっ、じゃ、じゃあ誤解だというのは……」
「うん、もちろんすぐに分かったよ」
 
 エリアは座ったまま手を伸ばし、そばにあった棚の引き出しを開けた。
 中から取り出したものを、テーブルに置く。紙切れだ。

「それは」

 手にとって確かめるまでもない。
 最初にこの家を発つ直前、ダルクがしたためた書き置きだった。
 内容は帰宅の旨と適当な謝辞、そして返礼の約束――。
 
「ここで座って寝てた私を、寒いだろうからって、わざわざベッドに運んでくれたんだよね」
「そ、そうだ」
「ごめんね。それを私、勘違いしちゃって」
「いや、いいよ。誤解が解けたんならそれで。オレの方こそ、怖がらせてしまって……」
「ううん、私が早とちりしてしまったから……」
 
 互いに謝り、それを許しあう。
 そんなやりとりが二、三度繰り返され、最後には笑いがこぼれ落ちた。
 ダルクの胸の中にあったもやもやが、すーっと晴れていくのを感じる。
 これでこの件は完全に落着した。
 
 エリアが理解ある常識人でよかった。
 これで当分は枕を高くして眠れるというもの。
 紆余曲折はあったが、今夜水汲みを敢行したのは正解だった。
 
「……それで、ダルク君の話っていうのは?」
「ああ、今ので終わりだよ」
「そ、そっか。じゃあ次は私の番ね」
 
 ダルクは意外に思った。
 エリアから「話がある」と聞いたときは、瞬間同じ話題だと決め込んでいた。
 もうこれ以上、自分と関わりある話題など思いつかない。
 
「……あのね……えと……あっ、それ、冷めちゃうよ」
 
 ダルクは促されるままにコップを手に取りながら、内心首をかしげた。
 それほどエリアが言葉につまるような話が、果たして自分にあっただろうか。
 
 コップの中に入っていたものは極上のスープで、飲むとやはり胸の芯から温まりゆくのを感じた。
 しかし話の腰を折るのも躊躇われたので、ダルクは小さなリアクションだけでそれを示し、
黙ったままエリアの言葉を待った。
 
「えと……ダルク君は……」
 
 急に声をひそめたので、ダルクまで妙に緊張し始めた。一体何の話か見当もつかない。
 エリアはそれからまた口ごもっていたが、やがて意を決したらしく、ついにそれを尋ねた。
 
「ダルク君は、小さいとき、女の子を助けたことって、ある?」
 


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