過去ログ - 夜叉「もうすぐ死ぬ人」
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38:JK[saga]
2012/01/12(木) 20:41:38.19 ID:DE4CuiAp0





月夜叉は泉を喰らわず、その場に置いて穏やかに歩き去る。
数年来の知人が死に至り、人を喰らう己は遺される。
久遠にも近き年月を月夜叉はずっと斯様にして存在してきた。
己は死を齎す者、死を運ぶ者、死を知る者、されど死のない者。
故に夜を往く。己の存在の理由も分からぬまま人を喰らいながら存在し続けてきた。

されど、己の存在理由を月夜叉は分かりかけていた。
非人間でありながら人間の姿をしている己。
人間の想いを受けながら、感情を有さず人間を喰らい続ける己。
己は恐らく……。
無論、それは仮定に過ぎず、分かった所でどうなるものでもなかった。

だが、一つ言える事がある。

それは月光が。

今宵はない。
今宵は世界に降り注がない。
されど、見えずとも、新月の夜にも月は確かに空に存在している。
同様に月夜叉は存在し続けるのだろう。
如何な時も。見えずとも。視認出来ずとも。
死のある者たちと共に、死の瞬間を過ごすためかの如く。
総てのものに平等に。渺茫たる存在として。
月夜叉は、斯様にして、存在し続けるのだ。

故に今宵も、月夜叉は夜を往く。
夜を往き、死を齎していく。
恐らくはそれもいつかは終わる。必ず終わる。
死の無い存在にも必ず終わりは来る。
いずれは何者もが消失するのだから……。
故にその瞬間をこそ、月夜叉は望む。
望みながら、在り続ける。

彼女は月夜叉。
月、そして死を司る夜叉だ。


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