103:>>1 ◆weh0ormOQI[saga]
2011/12/29(木) 22:27:13.72 ID:Tke7n+/c0
「何十年来の付き合いだと思っているんだ? 君の人生の至上目的を考慮に入れれば、
そう難しい探偵ごっこではなかったよ」
「なぜここに来たのかを聞いているのよ、私は!」
「……七十年前」
昂騰する女の血液を、老人の囁くような一言が鎮めた。
その数字はまさしく、ローラにとっての人生の岐路そのものだった。
「父親に裏切られ、傷付いていた君の手を離してしまった日のことを、時折夢に見るのだ。
もしもあの日、復讐に走る君を止めていれば、とな」
「………………そんな選択をしていたとしたら、ローマ正教徒から愛される今日のマタイ
=リースはなかったでしょうね」
「そう、その通りだ。昨日を悔やんでも明日は変わらない……だから」
冬の街路樹よりも頼りない弱弱しい手のひらが、何十年経とうと老いを知らぬ若々しい
手のひらを恭しく包む。
マタイは二十億の信徒を惹きつけてやまぬ、純朴な笑みをローラに向けた。
「だから今日、君の手を取りに、ここまで来たのだ」
どこまでも他者の幸福を希求するその精神もまた、『無限の愛』と呼ぶに相応しいのだろうか。
ローラはそっと目を伏せて、声を潤ませるので精一杯だった。
「…………まっこと、お前は、度し難い馬鹿ね……」
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