過去ログ - とある主人公たちのハーレムルート
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13:骸の蝉(了)[saga]
2012/01/02(月) 23:51:24.27 ID:Ct7sawydo
「滝壺。私、怖いよ」
「むぎの?」
「滝壺の言うとおりになればきっと私はシアワセになれるんだと思う。でも、一回幸せを知ったらもう引き返せない。もし浜面に愛想つかされたら生きていけなくなる」
滝壺がもう一度、優しく麦野を抱く。ふわっと開いた髪からする匂いが見えない衣となって二人を包む。
麦野の感情が爆発することはなく、そして滝壺の言葉を突き放すこともなかった。
そこまで自分を見つめたんだね、と滝壺が微笑む。
「大丈夫。浜面は絶対に麦野を見捨てたりなんかしない。あの人は強いもの。頼りなくて情けなくて僻み根性が染み付いているけど、でも、あんなに強い人、他にいないよ」
浜面は強い。
スーパーマンではないし、オペラの主役にもなれない。世界の危機を救うこともできない。ただの、無能力者だ。
しかし、強い。
その強さは超能力者麦野沈利を三度にわたって退けた、ということとは違う。
当たり前のことを当たり前にこなし、どんな悪条件でも絶望に蝕まれることなく、僅か数パーセントの確率でもそれが最善の手であるのならば命をとして実行する。
その精神力こそが――強いのだ。
その強さを麦野は身をもって知っている。
麦野から眼球と左腕を奪い、そしてそれを元に戻せと強く言ったあの眼を知っている。
だから
「信じても、いいのかな。甘えても、いいのかな?」
再び泣き出しそうになりながら滝壺に問いかける。
溢れ出しそうなのは涙だけではない。伽藍堂であるはずの心の中にいっぱいに詰まっている誰かへの想いが、堰を切って溢れ出しそうなのだ。
蝉が大声でなくのは交配の相手を探すためだ。
自分がここにいるよ、と天地に響くように宣言しているのだ。
そのための空洞があるとしても、きっと何も詰まってないわけではない。
麦野の空洞は溢れ出す感情で埋めつくされている。
埋めつくされた感情できっと宣言するのだろう。自分の思いを伝えるのだろう。
滝壺はただ微笑んで、
――応援するからね?
とだけ、はっきりした声で麦野に告げた。
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