過去ログ - 魔王「異世界でネトゲしてくる」
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/01/07(土) 13:20:38.67 ID:g2OIaAUDO


「側近よ、わらわは隠居することにした」
「――は?」
敬愛する主君から粛々と告げられた報告に、敵軍指揮官をして沈着冷静と称えられる側近の顔が歪む。
門扉から玉座までを金糸の織り込まれた絨毯が橋渡す、大理石の広間。
絢爛の限りを尽くした王の間には、玉座とその傍らに控える二者だけが佇み、密談を交わしていた。
「……またまた、ご冗談を」
側近は感情味の乏しい表情に戻り、やれやれと首を竦めて言う。
薄々、冗談ではないと察していた。
しかし無理だ。
すんなりと受け入れられない。
皆が思い描く人物像ほど、彼女は物分かりもよくなければ、達観も諦観もできていなかった。
「冗談ではない。冗談は好むが、このように面白味のない冗談は口にせぬ」
絞り出すように、主君は否定の言葉を紡ぐ。
その言葉が、側近の淡い希望を完膚なきまでに打ち砕くと分かっていたのだろう。
王者として悠久を生きたとは思えぬ幼い容貌は悲哀に濡れ、まるで母親に叱られた無垢な幼子のようであった。
「……っ、な、なるほど、隠居したと見せかけて不穏分子を誘き出すのですね。深謀深慮のほど、恐れ入ります」
「違う、違うのだ、側近よ」
希望を断たれてもなお足掻く側近に、一層悲しみを深めた声音が届く。
その瞬間、側近は生まれてきたことを恥じた。
降りかかる火の粉を払うと誓った自らが主君に更なる説得を強き、長引かせた責め苦で苦しめたからだ。
主君の態度を見ればそのような思惑ではないと、すぐに理解していたのに。
ありべからざる失態に呆然とする側近を見つめ、主君は口を開いた。
「宣戦布告してきた人間らと戦端を開いてから幾星霜。
いわれのない悪行で侵略を仕掛けてきた人間も、今や知性ある魔族に傷をつけることも叶わず、破壊衝動しか持たぬ魔獣しか害せぬほど脆弱になった。
最早、わらわは無用の長物であろう。政《まつりごと》においても、な」


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