25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/01/09(月) 16:38:01.71 ID:Szi3hrtDO
投下します
「お金が……現金がいるのか」
「ああ〜、まあそりゃあねぇ」
地下鉄の構内。改札口。
改札機を通ろうとして、当たり前のように阻まれた魔王は、困り果てていた。
「どうしたものか……」
この世界の交通機関、というものを甘く見ていた。
魔王は嘆息を零す。
経験こそないものの、人間の国や魔族領の交通機関――馬車や牛車については、知悉《ちしつ》していたのだが。
運賃の代わりに物品で賄う、という事例を聞き及んでいた為、文化の違いに直面した。
切符売り場の駅員から注意を受け、容姿や言動、二の腕に被せた長衣で構内の人々に注目されて。
無用心な親御さんだなあ、と感想を漏らした駅員から、幾つか教えてもらった。
お金を稼ぐには、仕事。
小金を稼ぐならアルバイト、安定した収入を得たいなら就職。
短期で働くなら、と訊いたらアルバイトだと言われた。
アルバイトについて出来る限り聞き込み、履歴書とはどのようなものか、という話題になった。
駅員は「今朝、同僚が息子のアルバイトがどうたら言って、履歴書持ってきてたな」と独り言を呟くと、同僚からもらってきた履歴書を一枚、魔王に渡した。
「これを参考にするといいよ」
必要事項を埋めればいいと教わった魔王は、謝礼に宝石の散りばめられたローブを置き――そして今、履歴書と格闘している。
外套やローブを質に入れよう、という発想は魔王にない。
いや厳密には、駅員から情報を貰い受けるまではあった。
しかし、受けた恩を返す手段があるのに返さない、という選択肢は思考の外だ。
もし仮に、恩返しで臣下の大事なものを脅かす、というのなら恥を忍んで不届き者ともなろう。
だが、自らの懐具合を理由に返さぬくらいなら、汗水足らす労働を選ぶ。
安易には元の世界に帰れない魔王にとって、この気性は厄介なものだった。
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