238:にゃんこ[saga]
2012/03/13(火) 18:34:03.31 ID:j2MHioAf0
「うっ……、あっ……」
声が出せない。
顔が熱いのは、勿論のぼせたせいじゃない。
お世辞ならまだよかった。
お世辞なら軽く流してやる事でこの場は終わってたんだから。
でも、和はお世辞を言うタイプじゃないし、
視線を戻して見てみた和の顔はとても真面目な表情だった。
つまり、和は本気で私を可愛いって言ってくれてるんだ。
真面目に可愛いって言われた事なんかほとんど無い。
唯や澪相手なら叩いてやる事も出来ただろうけど、
和相手じゃ、しかも真顔の和相手じゃそんな事が出来るはずもない。
私はどうしたらいいのか分からなくなって、
立ち上がって、五右衛門風呂の方向に逃げて入り直した。
そのまま頭まで潜って、しばらくお湯の感触を全身で感じる。
まったく……。
和の奴は何を言ってるんだよ……。
そんな真顔で可愛いって言われちゃ、勘違いしちゃうじゃんかよ……。
自分が可愛いんじゃないかって思っちゃうじゃんかよ……。
似合わないんだって、私に可愛いとかそういうのは……!
私が目指すのは可愛いとかじゃなくて、カッコいいの方なんだから……!
三十秒くらい潜っていただろうか。
ちょっと息が苦しくなって頭をお湯の上に出すと、目の前には和の顔があった。
「うわっ」と私は軽く叫んじゃったけど、
和はそれを気にせず、五右衛門風呂の空いてるスペースに身体を入れた。
単に冷えて来たから、お湯に浸かり直しに来ただけなんだろう。
それが余計に恥ずかしい。
つまり、和はさっきの言葉を、何でもない常識だって考えてるって事なんだ。
冷えて来たからお湯に入る事と同じくらい、私が可愛いって事は常識だと思ってるんだ。
だから、何でもない表情を浮かべてるんだ。
「うぇ……、えっとさ……、和……。
私、昼間の件で一つ考えた事があるんだけど……」
自分の恥ずかしさを誤魔化すために、私はどうにか和に他の話題を振った。
本当はもっと落ち着いてから話すべきだったんだろうけど、
他に話題も思い付かなかったから、その話をするしかなかった。
急に話題を変えた事に嫌な顔もせずに、和は私の話を聞いてくれた。
私が話したのは、昼間の件の原因についての私の推測についてだ。
急に人の姿が見えたのは、あの場所自体に原因があるんじゃないか。
ひょっとすると異世界同士を繋ぐ門みたいな物があって、
その誤作動だか何だかで人の姿が現れたんじゃないか。
その門を上手く使えられれば、私達はこの閉ざされた世界から脱出出来るんじゃないか。
私の考えの全てを伝えた時、和は真剣な表情を私に向けた。
さっきこの話をした時みたいな、沈んだ表情は無くなっていた。
「異世界同士を繋げる門……。
面白い考えだと思うわ。
そう考えれば、私達は元の世界に戻れるかもしれないわね。
そうだったらどんなにいいかしら……。
でも、ちょっと待って、律。
私ね、今日一つ気付いた事があるのよ。
律の持って来てくれた地図と梓ちゃんの持って来てくれた地図、
両方を見比べて、自分の記憶とも対照してみて、すごく単純な事に気付いたの。
それはまだ誰にも言ってないんだけど、律にだけ言うわ。
他言無用でお願い」
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