過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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272:にゃんこ[saga]
2012/03/24(土) 18:55:33.03 ID:J932UPGH0
だから、私は深呼吸して、軽く笑って見せた。
もし今の行動で梓に嫌われたんだったら、他の所でフォローしよう。
本当に謝らなきゃいけない時はあると思うけど、
自分の不安を消すためだけに謝るなんて、しちゃいけない事だ。
「何でもない。練習、頑張れよ」と私が言うと、「律先輩も」と梓が返した。

むったんを持って、梓が音楽室の中央に向かう。
私は大きく深呼吸をしてから、さっきまで座っていたドラムに向かって歩いていく。
純ちゃん達が梓に心配そうな声を掛け、「大丈夫だよ」と梓が微笑むのを横目に見る。
少しだけ安心しながら、私は相棒のドラムの椅子に座った。

相棒のドラム……。
ほうかごガールズを組んでから、メンバーで分担して運んだ私の黄色いドラムだ。
わかばガールズのライブの後で演奏出来るように、実家に置いておいたんだよな。

菫ちゃんのドラムを借りるって選択肢もあったけど、私はそうはしなかった。
純ちゃんは「スミーレは気にしないと思いますよ」って言ってくれた。
でも、それは遠慮しておいた。
わかばガールズのドラマーは菫ちゃんで、
菫ちゃんのドラムは菫ちゃんだけの物なんだ。
後からしゃしゃり出た私がその居場所を奪っちゃいけないんだ。
例え今後一生会う事が出来ないとしたって、それだけはやっちゃいけない。

まあ、菫ちゃんのドラムが身長の高い人用のドラムだった、ってのもあるけどさ。
話にはちょっと聞いてたけど、でけーな、菫ちゃん……。
梓に見せてもらった写真で見ても、梓より頭一個は確実に大きかったし……。
勿論、ドラムをセッティングし直す事も出来るんだけど、やっぱりそれは駄目なんだ。
私だって自分のドラムを勝手にセッティングし直されたら、
流石に怒りはしないけど、どうも気分悪いもんな……。

また深呼吸。
ふと視線を向けると、ピアノの先から和が私を見つめていた。
何かを言いたそうな表情をしてたけど、何も口にしなかった。
それが嬉しかった。
和は私が何をしようと見守っててくれるつもりなんだろう。
私は小さく頷いて、手に持ったスティックをもう一度頭上に掲げて言った。


「おーし、じゃ、初合わせいくぞー?
誰かに聴かせるわけじゃないんだし、和もあんまり緊張しなくて大丈夫だからな。
憂ちゃんも純ちゃんも、これまで練習した通りにやってくれれば問題無いから」


三人に声を掛けたけど、梓には何も言わなかった。
こればかりは梓に声を掛けるのが怖かったからじゃない。
梓なら何も言わなくても完璧に合わせてくれるだろうと思ってたからだ。
何かの悩みを抱えたとしても、梓はそういう後輩だ。

純ちゃん達が頷き、梓もそれに続いて頷いた。
よし、今は私の不安の事は忘れよう。
今からは音楽の時間。
音を楽しんで、心を一つにする時なんだから。
私は笑顔を浮かべて、声を上げてスティックを叩く。


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