355:にゃんこ[saga]
2012/04/25(水) 18:32:49.91 ID:sybMAEU90
◎
「ほらほら、律先輩、早くこっちに来て下さいよー!」
はしゃいだ様子で梓がロンドンの街を駆ける。
ツインテールを揺らして、独特の街並みを走る梓の姿には妙な爽やかさがあった。
元気なのはいいんだけど、これは予想外だった。
梓の奴、一体、何をはしゃいでるってんだ……?
「ちょっと待てよ、梓ー。
そんなに急いで行く必要も無いだろー?」
置いてかれないように、小走りで梓を追い掛けながら言う。
ロープだけはしっかり握り合ってるけど、
あんまり速く走られるとロープが手から離れちゃう危険性がないわけじゃないしな。
昼食を食べ終わった後、私と梓は二人で外回りに出ていた。
唯は少し疲れたという事で留守番する事になった。
きっと澪と梓の何倍も力を入れて街を探索していたんだろう。
体力的にはともかく、精神的には相当に疲弊してしまってるみたいだった。
それで唯の傍には澪とムギが付き添う事になった。
大丈夫だと思うけど、万が一って事が無いわけじゃない。
いざという時のためにも二人は付き添ってた方がいいだろうって話になった。
それで私と梓が二人で街を回る事になったわけだ。
狙わなくても梓と話をするチャンスが出来たのは助かったけど、流石にこれは面食らう。
てっきり唯の話ばかりになるはずだって思ってた。
大した事はなさそうだけど、かなり疲れてるみたいだしな。
唯と特に仲が良い梓なら、唯の事が心配で仕方が無いはずだって思ってたんだけど……。
でも、今の梓からはそんな様子は見受けられなかった。
それどころか滅多に見せないはしゃいだ様子まで見せてる。
もしかして、午前中に唯と何か特別な話でもしたんだろうか。
梓をこんなにはしゃがせるくらいの話を……。
凄く気になるけど、それを直接梓に聞くわけにもいかなかった。
そういうのはやっちゃいけない事なんだ。
何はともあれ、梓が元気なのに越した事は無い。
勿論、無理して明るく振る舞ってる可能性もある。
その辺は少しずつ話をする事で判断していく事にしよう。
また少しだけ梓と軽く走る。
ちょっとだけ疲れ始めた頃、
辿り着いたのは卒業旅行の時に乗ったあの大きな観覧車が見える場所だった。
やっぱりそうか、って思った。
ホテルの近くで観覧車がよく見えたのはこの辺りだったって事は何となく憶えてる。
梓が足を止め、観覧車を見上げるみたいに首を上に向けた。
梓のすぐ隣まで走り寄ってから、梓に倣って私も少し遠くにある観覧車に視線を向けた。
まだ一年も経ってないはずなのに、既に懐かしい。
残念ながら、当然だけど観覧車は回ってなかった。
そりゃそうだ。電気が通ってないんだから。
でも、懐かしかった。
ロンドンなんて、もう二度と来る事も無かったかもしれなかったわけだしな……。
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