384:にゃんこ[saga]
2012/05/04(金) 18:40:47.94 ID:t2x5TMSU0
「今日は私が風呂当番だったんだ!
急いで沸かさないと梓達に叱られちゃうじゃんかよ!
悪いけど荷物は頼むよ!
また後でな!」
言い終わるが早いか、私はその場から駆け出していく。
駆け出さなきゃ、自分が自分で居られなくなる……!
「えっ? えーっ?
今日のお風呂当番りっちゃんだったっけ?
そんなの後でも……!」
私を呼び止めようとする唯の声が響いたけど、私は振り返らずに走り続ける。
物凄い勢いで走る。
その場から、逃げ出す。
唯の姿を見たからだけじゃない。
ムギの明るい声を耳にした瞬間、私は自分の心が壊れそうになるのを感じた。
似てる誰かが居るのは、私と唯だけじゃない。
新入部員の菫ちゃんって子はムギとそっくりだって梓が言っていた。
私も何度か目にした事があるけど、菫ちゃんはムギとよく似てると思う。
だとしたら、ムギだって私達と同じ苦しみを感じてたはずだ。
鏡を見る度に、辛い気持ちで居たはずなんだ。
でも……、ムギは唯の姿を見て明るい声を出した。
唯の行動を嬉しく思ってるみたいな声だった。
それはつまり、ムギは唯の想いを認めたって事なんだ。
思い出から目を背けず、
大切な思い出を絶対に取り戻すってムギも思ってるって事なんだ。
やめてくれ、と思った。
やめてくれよ……。
私の決心を揺るがさないでくれよ……。
未来を生きようって選んだ私の選択が間違ってたんじゃないかって思わせないでくれよ……。
思い出をまっすぐ見つめられてる唯達みたいに、私は強くないんだよ……。
私は一つの事に目を向ける事しか出来ないんだよ……。
「ちっ……くしょー……」
私の口から呟きが漏れる。
誰に向けて漏らした呟きでもない。
強いて言えば、自分自身に向けての呟き。
揺れてばかりの弱くて情けない自分への言葉だった。
私だって三人の事は忘れたくない。
忘れたくないけど……、
そればっかりに目を向けて進めるほど、私は器用じゃない。
胸の痛みに目を向けながら歩けるほど、私は強くないんだ。
不意に。
私は憂ちゃんと一緒に風呂に入った時の事を思い出した。
私と憂ちゃんの距離が少しずつ近付くきっかけになったあの日の事……。
憂ちゃんの笑顔と憂ちゃんの言葉はまだ鮮明に思い出せる。
忘れたくない。
だけど……。
あの日、憂ちゃんに背中に抱き着かれた感触だけは、
何故だか、どうしても思い出せなかった。
憂ちゃんの体温が私の中から少しずつ消え去ってしまっている。
憂ちゃんだけじゃなく、和や純ちゃんの体温も……。
少しずつ消えていく仲間達への想い……。
ひょっとしたら、それこそ私の望んでた事かもしれなかったけど……、
それはとても、
悲しかった。
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