388:にゃんこ[saga]
2012/05/06(日) 17:05:25.77 ID:i5v7bhML0
◎
浴槽にお湯を張って、私は一人で風呂に浸かる。
日本の風呂と違って比較的浅い浴槽だから、お湯を張るのは五右衛門風呂より簡単だった。
いや、お湯を張る……ってのは、ちょっと違うか。
ムギが見つけてくれたバッテリーに、
片っ端から電気ポットをタコ足配線で繋いで、沸いたお湯を浴槽に入れてるだけだからな。
ちなみに使ってる水は、コンビニとかで見つけたミネラルウォーターだ。
贅沢な気はするけど、水道は使えないし、流石に近所の川から水を汲んでくるわけにもいかない。
とは言え、正直、風呂一つにかなり手間が掛かってる気がしないでもない。
でも、今はそれがありがたかった。
実は今日は梓が風呂当番だったけど、無理を言って代わってもらった。
梓は不審そうな表情を浮かべていた。
だけど、それは「私が一番風呂に入りたいから」って言って、どうにか誤魔化した。
落ち着く時間が欲しかった。
面倒な作業を行いながら、自分の考えをまとめたかったんだ。
まとめなきゃ、唯とムギの前で落ち着いた姿を見せられないからだ。
湯船に浸かりながら、唯の姿を思い出す。
憂ちゃんみたいなポニーテール、和みたいな眼鏡……。
正直言って、唯が何を考えてるのかは理解し切れてない。
唯は単純に今この場所に居ない二人の真似をしたかっただけかもしれない。
ちょっと思いついて、やってみただけなのかもしれない。
でも、その心の奥底に寂しさがあるのだけは間違いないはずだった。
どんな理由があるにしても、唯は自分の中の寂しさと戦うためにそんな恰好をしてたんだ。
過去と立ち向かうために、きっと……。
羨ましかった。
羨ましくて、怖い。
私は未来に進むために過去を見ないようにした。
未来に突き進まなきゃ、恐怖でどうにかなっちゃいそうだった。
だから、私は残された皆と一緒に、この世界で生きてく事を重視しようって思ったんだ。
失った物にいつまでも目を向けていられるほど、私は強い精神を持ててない。
胸の痛みと戦いながら、失くした物を捜し続ける勇気なんて持てない。
これ以上失いたくないから、私は失くした物より残された物を護りたいんだ。
本音を言うと、過去に目を向けられる唯達を羨ましく思う気持ちはある。
私だってそうしたかった。
出来る事なら。
だけど、それはしちゃいけない事だったんだ。
絶対に、しちゃいけない。私だけは、それを選んじゃいけない。
過去に目を向ける事は立派だけど、過去ばかり見てちゃ絶対に前には進めない。
残された五人の中のリーダー的な存在の私だけは、それをやっちゃいけないって思うんだ。
残された皆を、何が何でも護るためには。
それにこれは私だけの決意じゃなくて……。
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