過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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417:にゃんこ[saga]
2012/05/11(金) 18:18:57.41 ID:7lmMqyTV0
「澪、おまえは……」


訊ねようとしたけど、すぐに私もそれ以上の言葉を出すのを躊躇った。
訊ねてどうなるって言うんだろう。
自分達の記憶が曖昧だって事に気付いて、どうするんだ?
自分の記憶すら信じられない状態になって、もっと不安になっていくつもりか?
他に出来る事や、やるべき事があるんじゃないか?
いや、それでも、答えを知る事はきっと前に進むきっかけにも……。
色んな感情や考えが頭の中でぐるぐる回る。
この答えだけは、出さなきゃ……。
皆が一緒に居るためにも、この答えだけは出せなきゃいけない……。


「律先輩! 澪先輩!」


急に甲高い声がロンドンの街に響いた。
急な事に驚いた私達は身体を離し、声の方向に視線を向ける。
その場所では、梓が自転車に乗って凄い速度で私達に迫って来ていた。
どうしてこんな所に?
いや、梓が私達の居る場所を分かってるのは不思議じゃない。
ロンドンに転移させられて以来、
私達は街を回る時、前もって皆で地図を見ながら回る道順を決めている。
勿論、連絡手段が全く無いし、お互いの居場所が分からなくなったら困るからな。
流石に狼煙で緊急事態を伝えるわけにもいかないし……。
だから、念のため、私達は前もってその日に回る道順を決めてたんだ。
梓に私達の居場所が分かってても、何の不思議も問題も無い。

でも、この場所に梓が姿を見せたって事が問題なんだ。
しかも、一人っきりで。
皆で手を繋いで行動する事を提案した梓が、
私を風呂の中でも一人にしたくなかった梓が、一人っきりでこの場所にやって来たんだ。
よっぽどの事があったんだ……。
胸を不安が支配していく事に気付く。
その場に立っていられない不安感。
私は思わず梓の方に駆け寄ろうとして……、出来なかった。
その場から動き出せなかった。
足が固まって、踏み出す事が出来なかった。

緊急事態の詳細を知るのが怖いってのはある。
これ以上、自分達の身に降りかかる災難に目を向けたくないって弱気は勿論ある。
でも、それよりも動き出せない理由が、私にはあった。
梓の事だ。
梓の傍に近寄るのが、怖かった。
そんな事はもう無いと思う。
無いと思うのに……、もし梓に近付いた時に、
私が自分を抑えられなかったらどうしようって思ってる。
私の胸に突然衝動が湧き上がって、それでもう一度自分を押し留められる保証はない。

その不安には、梓の身体が小さいって事も関係してる気がする。
梓の身体は小さい。小柄って言われる私よりも更に小さい。
だから、余計に怖いんだ。
唯、ムギ、澪なら私が自分を抑えられなくなっても、止めてくれると思う。
唯もああ見えて、それなりに力がある奴だし、意志も強い奴だからな。
でも、梓はきっと無理だ。
小柄で、優しい子だから、
私が変な衝動に囚われても、受け入れてくれるんじゃないかって思う。
嬉しいけど……、そんなのは駄目だ。
梓の優しさに甘えてちゃ駄目なんだ。
自分の弱さを慰めててもらってちゃ、私はもっと弱くなる。
今まで以上に、前に進めなくなる……!


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