518:にゃんこ[saga]
2012/06/06(水) 18:19:50.15 ID:QW3lfYqc0
私達は傍に居たいと思ってた。
高校を卒業して、離れ離れになってからその想いはずっと強くなった。
遠く離れても大丈夫ってよく聞く言葉は建前だ。
遠くでお互いの事を思い合う事なんて、そんなに簡単な事じゃない。
傍に居なきゃ想いは伝えられない。
傍に居なきゃ不安ばかり募っていく。
傍に居なきゃ……、傍に居なきゃ……。
だから、まだはっきり思い出したわけじゃないけど、
元の世界で唯が頭に大怪我した時、確か私達はもっと唯の傍に居られればって思ったはずだ。
唯の傍に居るんだ、皆の傍に居るんだって、皆で強く思ったんだ。
どういうわけか、どういう理屈か、その願いは叶った。
そして、叶った結果がこれだった。
誰よりも傍に居る事を願った私達が手に入れた物は、私達五人しか存在しない世界だったんだ。
私達が傍に居られる事はとても嬉しい。
だけど……。
私は私と包帯で繋がれた唯と視線を合わせる。
唯は悲しそうな表情を浮かべて、首を横に振っていた。
それだけの事で、私にも理解出来た。
唯も私と同じ気持ちなんだって。
梓にこんな事をさせちゃいけないんだって。
私は唯と繋がれた右手の指先を動かして、唯に合図を送ろうと思った。
この件に関しては、私は梓に上手く伝えられそうにない。
これまで何度も伝え方を間違って来た私なんかじゃ、
また梓に哀しい想いをさせてしまうだけじゃないかって、そう思えて仕方ない。
だから、これは唯に伝えてもらうべきなんだ。
唯なら感性的な言葉にはなるだろうけど、上手く伝えられる気がする。
梓だって世話ばかり掛けてた私の言葉より、大好きな唯の言葉の方が嬉しいだろう。
私なんかより唯の言葉の方が……。
瞬間、私は指の動きを止めた。
いや……、駄目だよ。
唯の方が間違いなく上手に梓に想いを伝えられる。
そっちの方が梓だって喜ぶ。
それでも、それは絶対に駄目なんだ。
どんなに下手でも、私は自分の気持ちをちゃんと伝えなきゃいけないんだ。
それだけはこの世界に来て、私が学べたたった一つの事だと思うから……。
私は息を吸い込んで、梓に顔を向けて言うんだ。
「なあ、梓……」
「はい。何ですか、律先輩?」
梓が微笑みながら私の言葉に頷く。
ロンドンに転移させられてから、滅多に見れなくなってた梓の安心した微笑み。
ずっと見ていたかった。
ずっとその笑顔のままで居させてやりたかった。
でも、駄目なんだ。
梓の笑顔を奪う事になっちゃうとしても、これだけは私の口から伝えなきゃいけない。
唯が私を悲しませる事になるかもしれないって思いながらも、
私が投げ捨てたピックを見つけ出してくれたみたいに、私は同じ間違いを梓にさせちゃいけない。
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