過去ログ - 律「閉ざされた世界」
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519:にゃんこ[saga]
2012/06/06(水) 18:20:17.63 ID:QW3lfYqc0
「包帯……、ほどかないか?」


「えっ……?」


途端、梓の表情が悲しそうに歪んだ。
予想出来ていた事だったけど、その梓の表情を見るのは辛かった。
胸が痛かった。張り裂けそうなほどに痛かった。
やっと安心する方法を見つけられた梓を突き放すような事はしたくなかった。
だけど、こうしなきゃ、私も梓ももう戻れなくなるから。
元の世界に……じゃなくて、大切な仲間だった私達に戻れなくなるから。
私は……、続けるんだ。


「梓の気持ちは嬉しいし、分かるんだけどさ……。
でも、こういうのはよくないと思うんだよ、梓。
傍に居たいって気持ちは嬉しいよ?
私だってそうだし、でも……」


「そ、そうですよね!」


私が言葉を終えるより先に梓が言葉を重ねた。
悲しそうだった表情が、笑顔に戻ってる。
でも、鈍感な私にもはっきり分かった。
その梓の笑顔は、無理に浮かべてる笑顔なんだって。
そんな歪な笑顔を浮かべたまま、梓がまた早口で言った。


「先輩達も目を覚まされたわけですし、いつまでも繋いでるわけにもいきませんよね。
今、突然風が吹いても、すぐに手を繋ぎ合えばいいだけの事ですし……。
それにずっと包帯で繋いだままじゃ、手首が痛んじゃいますよね!
すみません、そんな単純な事にも気付かなくて……。
じゃあ、すぐに包帯をほどきますから……」


言ってから、梓が私の手首の包帯をほどこうと左手を伸ばす。
私は唯の手と繋がれたままの右手を伸ばし、その梓の手の上に置いて言った。


「そうじゃない……。
そうじゃないんだよ、梓……。
皆の手を何かで繋ぐ事自体をやめないか?
おまえの言う通り、包帯で手を繋いでたら、風が吹いても一緒に居られるかもしれない。
皆、ずっと傍に居られるかもしれない。
だけど……、でも、それはさ……、上手く言えないけど違うって思うんだよ。

私だって、唯だって、澪だって、ムギだって、皆と傍に居たいって思ってる。
おまえもそう思ってくれてるのは分かる。
でもさ、傍に居られればいいってわけじゃないはずなんだ。
ただ傍に居られたらそれでいいって……、そういうの……、何か私達じゃないだろ?
単に傍に居る事が大事なんじゃなくて……、その……何だ……」


上手く言葉に出来ない。
全然、思ってる事が伝えられない。
もっとちゃんと伝えたい事があるのに、私にはそれが出来てない。
素直になって、嘘を吐かずに真正面から梓に向き合ってみた所で、私にはこの程度の事しか出来ない。
悔しかった。
梓が大切だって事が上手く言葉にまとめられないのが辛かった。
私って奴は本当に何も出来てないな……。

でも、梓は微笑んだ。
微笑んで、私と梓を繋いでいた包帯をほどきながら喋る。
静かに、言葉をその口から出す。


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