521:にゃんこ[saga]
2012/06/06(水) 18:21:11.55 ID:QW3lfYqc0
途端、梓の瞳から大粒の涙が一筋こぼれた。
梓の悲しみの詰まった涙が……。
私の想いが上手く伝えられなかったせいで……。
「あずにゃん……。
そうじゃないよ……。そうじゃなくてね……」
唯が辛そうな表情で呟く。
梓を心の底から心配してるのがよく分かる表情だった。
私は梓だけじゃなく、唯まで悲しませてしまったんだ……。
辛いし、自分の不器用さが情けない。
それを後悔する事は出来たし、今までもそうして来たけど……。
私はもうそうするわけにはいかなかった。
これから先、私は梓にもっと嫌われる事になるかもしれない。
拒絶されてしまうかもしれないって思うと怖い。
だけど、誤解させたまま梓を悲しませてるのだけは、絶対に駄目だ。
傍に居なくたって大丈夫って思えるのは大切な事だ。
離れててもずっと仲間だって信じられるのも立派だと思う。
それでも、私達はまだそんなに強くない。
想いの力だけを信じられるほど、皆と話し足りてない。全然足りてない。
もっと話がしたい。演奏をしたい。一緒に居たい。
私はやっと皆が一緒に居られるために必要な事を見つけ出せそうになったんだ。
あれだけ皆に迷惑を掛けて、やっと見つけられそうになったんだ。
それを梓に伝えたいんだ。
本当に大切なのは、皆がただ一緒に居る事じゃなくて……!
「あず……」
もう一度、私は必死に左手を動かしたけど、
その場に立ち上がってしまった梓の身体の何処も掴む事は出来なかった。
一筋の涙を拭って、梓は私達に背を向けて部屋から飛び出して行ってしまった。
「し……、失礼します!」
絞り出したみたいなその言葉だけを私達に残して……。
呆然としていたと思う。
今までの私達だったら。
昨日までの私と唯だったら。
でも、もう呆然としてるわけにはいかなかったんだ。
もう自分の無力に泣いてるのはやめなきゃいけないんだ。
私も、唯も。
唯と頷き合うと、私達は布団を蹴り飛ばして床に脚を下ろした。
梓を追い掛けるんだ。
そうして、駆け出そうとした瞬間、不意に唯がその場に崩れ落ちた。
腰から力が抜けたって様子だった。
私は腰を下ろして、唯に調子を訊ねてみる。
「どうした、唯っ?
平気かっ? 知恵熱……かどうか分からないけど、それがぶり返したかっ?」
唯は悔しそうな表情を浮かべ、私の言葉に首を振る事で応じた。
私は左手を唯の額に当ててみたけど、熱がまた上がったってわけじゃないみたいだった。
悔しそうに唯が小さく呟く。
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