631:にゃんこ[saga]
2012/06/30(土) 17:53:25.08 ID:zmR1v/Ro0
◎
演奏が終わる。
音楽の余波が夢のロンドンに溶け込んでいく。
心が、反響する。
皆して涙を拭い、少し太陽が傾き始めた空を見上げる。
空は綺麗で輝いていた。
唯の夢の中の空で、本当の空とは違ってるんだろうけど、
凄く綺麗で、輝いていて、何だか嬉しくなってくるくらいだった。
多分、この空は唯が世界をこんなに綺麗な物だって思ってるって事だから。
辛い事があっても、苦しい事があっても、
今、元の世界の自分が病院のベッドで眠り続けてても、唯は世界を綺麗だと思ってるんだ。
多くの物を、何もかも全部を一番にしちゃう困った奴だから、
そんな厄介で無茶苦茶で素敵な奴だから、私達は嬉しくなっちゃうんだ。
「想い……、皆に届いたかなあ……」
唯が目尻の涙を拭いながら呟く。
きっと憂ちゃんや和や純ちゃん……、それだけじゃなくて、
元の世界の唯と関わりのある全ての人の事について考えてるんだろう。
大切な人達、大切な世界の事について、考えてるんはずだ。
私達の演奏、私達の歌、届けたい思い……。
それらがさっきの演奏で元の世界の皆に届けられていたら、どんなに素敵だろう。
私は少しだけ苦笑して、唯の独り言みたいな呟きに応えてやった。
「馬ー鹿。届いてるわけないだろ、唯」
「ええー……。それ言っちゃ台無しだよ、りっちゃん……」
恨めし気な視線を私に向けて、唯が頬を膨らませる。
確かに台無しだったかもしれないけど、私達はこんな所で立ち止まってるわけにはいかないんだ。
唯もそれは分かってたみたいで、すぐに軽く微笑み直した。
私はドラムの椅子から立ち上がり、唯の傍に近付いてからその首に腕を回してやる。
「私だってさ、この歌が元の世界の皆に届いたらいいなって思ってるんだぞ?
でもさ、そんな一方的に押し付けちゃっても、元の世界の憂ちゃん達に迷惑だよ。
私達は憂ちゃん達が居ない場所で勝手に歌っただけなんだからな。
そんな歌が憂ちゃん達に届くわけないだろ?
例えるなら、寝てる時に見る夢の中で会った知り合いに、
「この前、夢の中で君と会ったけど、あの夢面白かったよね」って、現実で訊ねるみたいなもんだよ。
そんな事言われたって、どんな反応しろってんだよ……。
確か小学生の頃にそういう事訊いて来た同級生が居た気がするが……。
とにかく、こんな五人だけで演奏した曲を誰かに届かせようってのは、無茶な話だよ」
「うーん……。
それを言われちゃうと弱いなあ……」
私の腕の中で私に視線を向けながら、唯が苦笑する。
唯だって分かってるんだ。
夢の中で演奏したって、届けたい想いを皆に届けられるはずがないって。
そんなの当たり前だ。妙な期待をしたって、遠い所に居る人に想いなんて届くはずがないんだ。
分かり切った事だ。私も唯も澪もムギも梓もそんな事は分かり切ってる。
「ですけど……、だからこそ……」
梓が私達に近寄りながら力強く言った。
心の底からそう思ってる……。
そう感じさせられる強い気持ちのこもった言葉だった。
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