86: ◆A5TupjgAQE[saga]
2012/02/23(木) 22:16:48.21 ID:jAHGKByd0
あれは、何年前のことだっただろうか。
お父さんが浮気をしていたことがばれてしまって、それをきっかけに夫婦仲が悪くなり、
ある日お母さんが蒸発してしまって。
お父さんは仕事でほとんど家に帰ってこない。
けれど仕事というのは都合のいい言い訳で、本当はこの家に帰ってきたくないだけなんだろう。
母の面影が色濃く映る、あたしと姉の顔を見たくないからなんだろう。
あの時のお父さんは少し酔っていたようで、妙に機嫌が良かった。
だからスーツのポケットからそれが落ちたのにも気づかずに、鼻歌なんか歌いながらそのままお風呂場に向かって。
あの時ちゃんと気づいていれば、きっとこんなことにはならなかったのに。
淡い紫色をした、刺繍の施されたハンカチ。
―――きもちわるい。
そのハンカチから漂うねっとりとした甘い香りに、何故だか言いようもない嫌悪感を覚えた。
女だということを強く主張したそれが、酷く汚いものに思えてしまって。
幼かったあたしは、どうしてかはわからないけど母に渡さなければいけないと思ったのだ。
「おかあさん」
あら、どうしたの?なんて母が笑っていたのもつかの間。
あたしがそれを見せた途端に表情がかげり、静かな声で「ちょっと待っててね」と言うと浴室に姿を消してしまった。
何度、時をさかのぼってあの時の自分を止めに行けたらと願っただろうか。
今のあたしなら、絶対にそんなことしようと思わない。
そんな馬鹿みたいなことしないのに。
もちろん母も薄々気づいていたんだろうし、ばれるのも時間の問題だっただろうけれど、でも。
決定打を打ってしまったのは、あたしで。
お父さんの浮気がばれてしまったのはあたしのせいなのだ。
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