過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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191:首を絞めるのに最適なもの (お題:合成繊維) 3/5[sage]
2012/04/11(水) 01:50:30.43 ID:cvtayWf6o
「なにやってるの?」
 不意に背後から声が聞こえた。甲高く、それでいて舌足らずな、聞くものをイラつかせる声だった。
 振り向くと底には5,6歳の少女がぽつんと立っていた。
「……なんでこんなところにいる?」
 私は手に持った試験管を立てかけ、少女に問いただした。ここはかなり山奥だ。それにただでさえ危険な薬品や、ガラスの破片が散らばっている。
「ここにはたまに遊びに来るの。 おじさんこそこんなところで何やってるの?」
 この研究所にはカギはない。あったのだろうが壊れている。子供が迷い込む事自体は不思議ではない。
 こんなところへ遊びに来るのは非常に危険だからやめろ、と咎めるべきなのだろうが、そんな気は起きなかった。
 この子もただ、自分の好奇心にしたがってこんな山の奥深くにやって来たのだろう。それを叱る資格は私にはない。
 私は置いた試験管を手に取って、その内容物をアルコールランプで加熱しているビーカーに、静かに注ぎ込んだ。
 ビーカーの中では二つの成分が反応し、白く濁った。
「わぁ! すごい!」
 少女はその様子を見て感嘆を上げた。顔を近づけ、目を輝かせてビーカーの中身を見ている。
 その少女の姿は、私に、私の少年時代を思い出させた。目の前で起こる摩訶不思議な現象を解明したい、利用して何かを成したい……。
 そんな無邪気で情熱的な日々を――。

 私は黙ったまビーカーを手に取った。少女の目はまだビーカーの中で起こる現象に囚われている。
 私はガラスの棒を手に取り、ビーカー中の溶液に突っ込んで、かき混ぜた。少女はぽかんと口を開けて呆けている。
 ガラス棒を持ちあげると、そこにはたくさんの繊維が巻きついていた。
「えぇ! なにそれ! なんでそんなのが出てくるの!? すごいすごい!」
 先ほどとは比べ物にならないほどの驚きを、少女はめいっぱいあらわにした。
 これからこの頼りない繊維が、私の首を絞め[ピーーー]、なんてことは想像だにしていないだろう。
 私はその繊維を手に取り、横に引きのばしてみる。耐久度を調べるためだ。その様子も少女は食い入るように見ていた。
 プツンッと、白い繊維は千切れた。失敗だ、この程度の力で切れてしまうようではとても私の体重に耐えられない。
 私は使用した試薬や配合率のメモされたノートに大きくバツ印を書きこんだ。失敗作は机の角に無造作に放った。


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