252:石の壁 (お題:覗き穴) 5/5[sage]
2012/04/19(木) 00:50:45.24 ID:8kZbww6po
「最期に何か言い残す事はあるか?」
死刑執行吏に扮した男が姫に問いました。意味のない形式的な問いかけでした。
姫はゆっくりと、透き通った声で答えます。
「最期まで隣にいてくれてありがとう」
騎士は目の前に光が差し込み、霧が晴れるような気がしました。
騎士の耳には、もう民衆の雑言は聞こえません。
「あなたが考え事をする時の、あの足音が大好きです」
二人は横に並ばされました。
二人の首に輪が掛けられました。
それでも騎士は目を見開いたままでした。
それでも姫は耳を澄ませたままでした。
「いつまでも、私のそばにいてくださいね」
「はい、例えこの身が朽ち果てようとも……」
二人が初めて交した会話でした。
もう、二人の間に壁はありませんでした。
終
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