442:滑稽な西日3/8(お題:秘密基地) ◆xaKEfJYwg.[sage]
2012/05/31(木) 01:32:02.91 ID:utSI55PFo
△
西日の明かりが眩しかった。とても眩しすぎて目がくらみ、右横を走り抜ける車のエンジン
音しか僕を楽しませる変化はない。通学路には長い坂の起伏が一箇所あり、いつも帰る時間帯
(特に夏の間)は、坂を登りきるまでのあいだじゅう西日に目を攻撃され、不快な気持ちにな
るのがいつものことだった。これも、後二年の辛抱だ。中学校は、西日に攻撃されない学校を
選んで進学するのだ。
車の通り過ぎる音に耳を傾けていると、不意に後ろからのびのびとした気持ちのいい声がした。
「かーの! 次はお前の鬼だぞお」
僕は声のしたほうに振り返る。鹿野は僕で、その僕の名前を呼び掛けたのは紛れもない山田
だった。
僕はまじまじと彼女の姿を検分した。本当に山田だろうか、と思ったのだ。普段の彼女だっ
たら、そんな言葉遣いをしない。だから、時間をかけて彼女の髪型と服装を調べた。
しかし、彼女は水いろの涼しげなワンピースをすとんと来ていて、頭の両端から三つ編みが
ぶら下がっていた。彼女の姿どれもが、声でさえも山田本人であることを事実と主張していた。
「かの! 鬼だから、言うこと聞かなきゃだめだかんね」
山田の言いたいことを数秒かけて考えて、僕はようやっと彼女の言っている言葉の意味を理
解した。
「こんなところに日陰はないよ。だから、すぐに山田さんが鬼になっちゃう」
彼女は、右足で何度も僕の影を踏んで、叫び続けた。
「ルールは守らなきゃだめ」
「でも、ぼ……私は、ゲームを始めた覚えはないから」
そんな僕の言葉は彼女には届かないようだった。いや、届いてはいるが受け取るのを拒否し
ているようだった。
「私を捕まえたら、なんでも言うことを聞いてあげる。その代わり捕まえれなかったら、なん
でも言うことを聞いて」
そういった途端、山田は一目散に走り出した。僕はあっけにとられて、山田が起こした風で
汗が乾ききるまで、動くことが出来なかった。
要するに、長い間彼女を追いかけようか、どうしようか迷ったのだ。
1002Res/642.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。