464:卒業式(お題:パイプ椅子) 5/5 ◆Qfu.mTwFskGG[sage]
2012/06/01(金) 09:33:18.47 ID:wtElJCM/o
目を覚ました男の目に最初に飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。
しかしながら白く無機質なそれに男は心当たりがあった。
白いベッドに白い布団、薄花桜色の病院着。
傍らに立てられた点滴の管は男の左腕へと続いていた。
その隣にはパイプ椅子に座った初老の女性がこくりこくりと首を揺らしながら眠っている。
「母さん……」
男の小さな呟きで女性は目を覚ました。
女性は細めた目を少し擦ると、今度はその目を大きく見開いて勢いよくパイプ椅子から立ち上がった。
「先生!息子が、息子が……」
部屋の扉の方へ要領を得ない叫び声をあげた女性が再び男の方を振り向く。
「よかった……。本当によかった……」
女性は安堵の声を漏らした。
そこで男はやっと自分の身に何が起こったのかを思い出した。
あの日、散歩に出かけた男は運転を誤った車に突っ込まれたのだ。
医師の話によけば、頭を強くぶつけた男はしばらく生死の境を彷徨っていたらしい。
状態はしばらくして安定したが、今の今まで意識を失っていたということだ。
カレンダーはあの日から丁度一ヶ月後の日付を示していた。
数日の検査の後、男は退院した。
後遺症が残ることもなく、事故に会う前と変わらず生活を送っていけるだろうと医師は言っていた。
それから数ヵ月後、男は小さな港町の卸売業を営む小さな商店に就職した。
給料は男が卒業した大学の同期から見たらささやかなものだったが、男の顔は何時になく生き生きとしていた。
引越しの準備をするために部屋の片付けをしていると古ぼけたアルバムが押入れの片隅から姿を現した。
そこには自分と同じあの日の少年が写っていた。
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