過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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588:ハーミッツ・ジャムをパンに塗って(お題:珈琲と泥水の違い)6/11[sage]
2012/07/03(火) 19:52:49.71 ID:FW9rMRg6o
 あれ以来、私は彼と連絡をとっていない。彼が今、どこで何をしているのかは知らないし、
知りたくもない。

 ¶

 美亜と歩く夜は素敵だった。まるで星が祝福しているように明るく輝き、風に揺れる木々が
たてる音が、静寂を賑やかなものに演出している。私は、静寂よりも賑やかなほうが好きだ。
 灰色の正門までたどり着くと、その傍に植えられている木に近づき、二人して腰を下ろした。
「美亜、ここは楽しいかい?」
 彼女は、地面の雑草を引っこ抜き始める。その作業のすがら、気のない返事を返した。
「うん。楽しい」
「みんなと仲良しだもんな」
「うん。でもね、こーちゃんはびみょうなの」
 こーちゃんというのは、比較的軽度の障害を持った男の子だった。情緒障害の気もあり、躁
鬱状態になり周囲を騒がすことが多い、言うなら気の掛かる少年だ。
「こーちゃんと、なにかあった?」
 二人は別々のグループなので、あまり接点がないはずだ。もちろん寝室と浴場は別々なので、
おおかた躁状態になっている彼を見て、怯えたのだろうと推測した。
 美亜は、雑草抜きを止めて、晒された土をほじくりだした。
「ひみつ。でも、びみょう」
「でも、微妙なんだな」
「それより、ゲキのお話、続き聞かせて」
「ん」
 今日の昼食の時間、食堂の隅っこで暇そうに空の皿をつついている美亜を見留めた。そのと
きに、劇のプロットを話してあげた。ちょうど皿を洗わなければならない時間が近づいていた
ので、話が途中になってしまったのだった。
 そのときの、真剣に私の話を聞いていた美亜の見開いた瞳を思い出して、私の口から笑いが
こぼれる。
「娘に美しいものの在りかを聞いたところまで、話したんだっけな」
「その次は?」


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