過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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589:ハーミッツ・ジャムをパンに塗って(お題:珈琲と泥水の違い)7/11[sage]
2012/07/03(火) 19:54:33.59 ID:FW9rMRg6o
「うーん……旅人は言われた通りに洞窟に向かうんだ。洞窟を覗くと、大きな蜘蛛と小さな蜘
蛛がいた。二匹は糸を張って、ベッドを作ってその上に寝ていたんだ。よぅく目を凝らすと、
二匹のその奥に光輝く何かがあった」
 美亜は土いじりを止めて、頷きなから私を見上げた。どうやら話を真剣に聞く姿勢になった
ようだ。
 気分が良くなった私は、テンポをゆるめ、話の先を考えながら語っていく。
「旅人はもっと近くで見たかった。けれど、蜘蛛に見つかったら糸でグルグル巻きにされてし
まう。困った旅人は、一旦引き返した。帰り道の途中、草を摘んでいる老人に出会った。旅人
は老人に蜘蛛を倒す方法を聞いてみた。老人は簡単に答えた」
「剣かなぁ。魔法かなぁ」
「『私が作ったジャムを食べなさい。そうすれば、蜘蛛の友達になることが出来ます』旅人は、
老人からジャムの入った瓶を受け取って、食べた。もう一度洞窟に向かうと……」
「うん。うん」
「蜘蛛が寝ていた場所に、王子様とお姫様が寝ていた。実は、魔女に魔法をかけられて、蜘蛛
になってしまっていたんだ。お城にいられなくなった二人は、洞窟に隠されていたんだ。王子
様とお姫様は起き上がって、旅人にお願いをした。『魔女をやっつけてください。そうすれば
なんでも一つ、願いを叶えましょう』旅人は……旅人は、お姫様と……いや、光り輝く美しい
ものが欲しいと言った」
 美亜とお姫様を重ね合わせて創作することが、これほど楽しいとは思わなかった。私は今、
とても美しい話を美しい少女に語っているのだ。
 祝福の光を惜しみなく与え続けている星たちを見上げようと、顔を上げる。
 そのとき、施設のほうから走ってくる人影が視界端に映った。
「こーちゃんだ」
 美亜はまるで私の話なんて聞いていなかったかのようにすっと立ち上がり、こーちゃんの元
へ走っていった。
 私は苦笑いを浮かべ、腰を上げて二人に近づく。
 こーちゃんの様子は明らかに普通ではなかった。躁状態特有の落ち着きの無さで、体を激し
く揺さぶって興奮している。言葉も吃り気味で何を言いたいのかが分からない。近寄った美亜
も、少々怯えているのか、カーディガンの袖を握り締めている。
 彼の口元と動作を注意深く見ていると、彼は出し抜けに美亜に飛びついて、抱きしめ始めた。


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