709:世にも地味に奇妙な話 1/4 ◆F00SERh74E[sage]
2012/07/29(日) 18:43:27.46 ID:wQd2OveG0
大学をやめて田舎に帰りフリーターをしている高木から、用事でそちらに行くから一晩泊めてくれと
連絡があった。適当に待ち合わせ、昔よく一緒に飲みに行った店に入った。ここは変わらねえな、など
と月並みな台詞を吐くので、なにセンチ気取ってんだと茶化す。酒を飲みながら共通の知人のゴシップ
や昔話に花を咲かせた後、ところでこっちに来たのは何の用だ? と水を向けた。
高木は返事をする代わりに、一拍置いてグラスに手を伸ばし、ちびちびと酒を口に含んだ。居心地悪
そうに壁の方に目をやり、一度深々とため息をついてから口を開いた。
「それなんだが――いや、やっぱり……そうだな、どう言ったもんか」
「妙に歯切れが悪いな。やましいことでもあるのか」
何かを躊躇しているようだったが、やがて踏ん切りをつけてなぜか財布を取り出し、小銭入れから引
っ張り出したものを俺に手渡した。白銀で重量感のあるそのコインを目の高さまで持ち上げ、何度か裏
返してみる。
「うわ、旧五百円玉じゃん、これ。久々に見た」
俺の反応を緊張した面持ちで窺っていた高木は、安堵した様子を見せた。その意味する所はまだわか
らない。もはや忘却の彼方に消えかけていた存在が思いもよらぬ形で目の前に現れた俺は、得体の知れ
ない高翌揚感を覚えていた。
「で、この世界屈指の高額面硬貨の旧バージョンがどうかしたのか?」
「端的に言えば俺の地元で流通している」
沈黙。俺は高木の顔をまじまじと見た。冗談にしても出来は悪いが、高木の目は笑っていない。旧五
百円玉? 少なくとも俺の知っている世界ではもうお目にかかる機会はほぼ皆無と言っていい。高木に
渡されたコインをもう一度取り上げてみる。新硬貨にくらべて微妙にだが重いと断言できる。それほど
あの黄色い新五百円玉が手に馴染んでいるのだ。
「からかっている訳じゃない。真面目な話なんだ」
そう言う高木の顔は切実だ。しかしあっさり信じた様子を見せて、担がれていたら甚だ癪である。こ
の状況に対する態度を決めかねて、俺は努めて疑わしげな目を向けながら言った。
「仮にそれが本当だったとして、なぜそんな事が起こるんだ? 今さら旧五百円玉が出回る現実的な経
緯がさっぱり描けないんだけど。それに何だってこんな話を始めたのかもわからん」
高木は頷いて、答える。
1002Res/642.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。