過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
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827:脱走 1/6 ◆D8MoDpzBRE[sage saga]
2012/07/31(火) 00:52:28.00 ID:U4+w33in0
 私はつい先日まで、家出少女を家にかくまっていました。
 少女の名前はニナ、と言いました。フルネームをどのように表記するのか、私には分かりません。偽名でないという保証
すらありませんでした。身分を識別できるようなもの、それこそ保険証やら学生証といった類のものを、彼女が何一つ持ち
合わせていなかったからです。
「足が付いたら、困る」
 とニナは言いました。
 まるで犯罪者めいた言い分でしたが、ニナにはそうする立派な(と言えるかどうかは分かりませんが)理由がありました。
単に、家出の事実を咎められて自宅に連れ戻されることを恐れていたのではなく、彼女は自分自身の年齢を隠していたのです。
 何故ニナが家出をしようと思ったのか、私には分かりません。そもそも、彼女が「家出」中であったことを知ったのも、
随分と経ってからでした。ゆえに、私はついにその動機を聞きそびれたのでした。
 ニナが今どこで何をしているのか、私は知りません。

 私がニナと出会ったのは、寒空から雪がぱらついていた、二月のとある日のことでした。
 その日私は勤務を終えて、午後十一時を回った頃に、京王井の頭線・高井戸駅にたどり着きました。平日の深夜であった
ことに加え、寒さのせいもあり、人影はほとんどなかったように思います。
 まだ夕食をとっていなかったので、私は駅からほど近い場所にあるファーストフード店に足を踏み入れました。店内の暖房
をありがたく感じましたが、あまり長居をすれば却って店を出づらくなると思い、テイクアウトすることにしました。
 その時、私は一人の少女と目が合いました。
 後から考えれば、彼女こそニナに間違いありませんでした。とにかく、人もまばらなこの時間に、女の子が小さなテーブル
席にコートを着たまま座っていたのです。
 こんな夜遅くに何事かと、思わなかったわけでもありません。
 ニナが、派手目なギャル系ファッションとでも呼ぶべき服装をしていたのならば、そんな心配はしなかったでしょう。寒い
中ご苦労なことだ、という平凡な感想で終わったか、そもそも視界に入らなかったかと思います。
 しかしながら、黒髪のボブカットとチャコールのコートという至って地味な取り合わせには、私の視線の網にかかるだけの
何かがありました。物珍しさと、違和感。
 とはいえ、それはその場限りの違和感に過ぎませんでした。少なくとも、家路を急ごうとする私の意志を曲げてまで関わる
べき問題とは思わなかったのです。
 ゆえにニナの第一印象は、店を出たときには既に意識の埒外へと追いやられていました。
 それにしても、思い出すにつけて何とも寒い日でした。電柱にくくりつけられた街灯が、舞い落ちる雪を寂しく照らしてい
ました。私はいつものように裏路地然とした路地を辿り、五分ほど歩いたところで居住するアパートに到りました。


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