過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
1- 20
828:脱走 2/6 ◆D8MoDpzBRE[sage saga]
2012/07/31(火) 00:53:38.10 ID:U4+w33in0
 つけられていたとは思いませんでした。
 六畳一間のワンルーム、ユニットバス付き。大卒三年目の会社員が日々寝泊まりするのには、いささかわびしい部屋かも知
れません。しかしながら、特定の女性と交際をしているわけでもなく、必要最低限の生活さえ出来ていれば特に不満を感じず
に過ごせる私にとっては、必要十分な環境でした。
 チャイムが、鳴りました。
 まるで私の帰宅を待っていたかのようなタイミングでした。着替えようとシャツを脱ぎかけていたのですが、敢えて直すのも
億劫に思い、そのままの格好でドアを開きました。
 少女が立っていました。
 私は、訝るように少女を凝視しました。近くで見ると、黒髪のボブという髪型はますます幼い印象を彼女に与えていました。
肌は白く透き通っているようで、ちょうど顔がライトの影に重なっていたせいで、随分と顔色が悪く見えました。
「泊まるところがないんです」
 と少女は言いました。
 要は、泊めろということでしょう。
 どのような経緯で彼女を泊めることになったのか、良く覚えていません。帰れ、と素直かつ冷淡に突き返せば、その時の彼
女の勢いでは抗えなかったでしょう。
 しかしながら、何はともあれ私は彼女に寝る場所を貸し与えました。狭い部屋に万年床が一つあるだけという質素な間取り
でしたが、「同衾」と呼ばれる状態を辛うじて避けられるポジションに収まることが出来ました。
 少女は、ニナ、と名乗りました。しかしそれ以外の出自に関しては、堅く口を閉ざしたままでした。
 一晩、宿を貸すだけ。
 当然そのつもりだったのですが、翌日以降もニナが出て行く様子はありませんでした。幸か不幸か、家の中には何も盗まれ
るようなものがなかったので、彼女に出て行けと強要できないうちに、何となく日が流れていきました。
 正直に告白すると、ニナに出て行って欲しくなかったというもの事実です。
 その後、ニナが語ったところによると、彼女としては一緒にいて不快にならない程度の相手に宿を貸してさえもらえたらよ
かった、とのことです。一人暮らしの男性ならガードも緩そう、とも。
 襲われる心配はしなかったのか、と問いかけたときも、しれっとしたものでした。
「その時は、その時――でも、あなたにそんな度胸はないと思う」
 私は、苦笑いを返すしかありませんでした。
 ニナは、私のことを見くびっていたわけではないようです。むしろ、そんな度胸のない私をなじるかのように、夜をまたぐ
毎に距離を狭めてくるのでした。同じ布団に入ってくる、体を接触させてくるなど、はじめはたわいのない行為でした。
 道を踏み外した、という表現が適切かどうか分かりません。確かに、ニナは幼いという印象を否が応でも抱かせる顔立ちを


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/642.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice