過去ログ - 文才ないけど小説かく(実験)
1- 20
968:その命、尽きるとき(お題:女神) 4/10 ◆AWMsiz.p/TuP
2012/08/12(日) 23:28:51.81 ID:j3F87tL90
「足が出る?」
「うん。恥ずかしい話なんだが、なにせ少ない年金で細々と暮らしている身だからなあ。ああいうところは金がいくらかかるかわからん
から、手が出んのよ」
 確かに探偵に人探しを依頼した場合の相場などわからない。しかし、茂さんが探偵を敬遠するのは、それだけが理由では無いように思
えた。思いつくのは警戒心だ。僕も探偵というものには近づきがたい響きを感じる。
「わかりました。じゃあ、期限は僕の夏休みが終わるまでの四日間。それで見つからなければ、悪いですが僕は探すのを断念させてもら
います。それでいいですか?」
「やってくれるのかい?」
 僕は黙って頷いた。少し間を置いて、茂さんは頼りなさげに煙を吐き出しながらいった。
「……実はもう一つ頼みがあるんだが」
「何ですか?」
「柴田めぐみには、わしが探しているということを伝えんで欲しい」
 なぜですか? と、訊こうとして止めた。柴田めぐみと茂さんの関係は不明だが、彼の名前を出した時点で今後の接触を拒否されるか
もしれない。居所をさえ掴めれば、あとは茂さんが自分のタイミングで会いにいけるのだ。
「……わかりました。なんとかします。じゃあ、またここで」

 * * *

 茂さんから教わった住所は、駅から徒歩で十五分の場所だった。住宅街とまではいかないが、少し裏手には民家が並んでいる。茂さん
の家からだと、歩いて二十分くらいであろうか。昔は僕もこの街に住んでいた。しかし、中学生のときに引っ越したので、この場所に来
るのは初めてだった。
 現場を訪れてみて、早々に問題が起きた。スナック『銀河』がすでになくなっていたのだ。もちろん、三十年も前なのだから、すでに
店がなくなっていることは予想していた。予想外だったのは、スナック『銀河』が建物ごと無くなっていたことだ。教えられた住所は、
今では大きな道路の一部となっていた。これでは、建物のオーナーや管理している不動産屋をあたる方法は使えない。
 どうするか、と周囲を見渡すと、道路を挟んだ向かい側に古びたラーメン屋があった。暖簾は綺麗だが、建物の外装はかなり汚い。時
計をみると、午後三時をまわったところだった。そういえば、今日はまだ何も食べていない。
 横断歩道を渡り、ラーメン屋の暖簾をくぐると、いらっしゃいませっ、という男女の声が響いた。調理場をL字に囲むようにして、カ
ウンター席が十五席ほどある。昼時を過ぎたせいか、客はひとりもいなかった。
「塩ラーメン大盛り」
 カウンター越しに注文する。「はいっ塩ラーメン大盛りね」と中年の男がいった。歳は四十歳くらいのようだ。慣れた手つきで、麺を
お湯の中に入れている。彼が店主なのだろう。奥さんと思われる女性は、ラーメンの器を取り出し、後は暇そうに店主の動きを眺めていた。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/642.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice